あのころの風景 ~ September Blue

1. 偶然の 出逢い


1. 偶然の出逢い

 高校生活最後の夏休みが終わったあと、初めてあなたに出逢った。
 聞くところによると、何処ぞの国からの帰国子女だという。

 ああ、だから九月に転入してきたのか……。

 私は何の興味もなく、そう思っただけだった。


 放課後、部活に行く途中の渡り廊下を歩いている時だった。

「うわ……、すごく綺麗な黒髪」

 振り返ると、背の高い幼い顔立ちをした男性が私の髪を躊躇いがちに触れようとしていた。
 九月の乾いた風に舞い上がる私の髪を梳くように、その美しく長い指は何かの音を奏でるように揺れた。
 その長い指はレンズを通した被写体をカメラに収める指だとあとで知った。

 九月の青い風の中。初めての出逢いは偶然だった。

 それ以来、何ら言葉を交わすことはなく、校内で会えば互いに会釈だけを交わし季節が通り過ぎて行った。
 ただ、何となくだが私の心の中に、彼は印象深い男性として存在していた。
 それは青い風の中に漂っていた陽だまりの匂いを彼が纏っていたからかもしれない。


 高校を卒業するとき、私は彼に短い手紙を渡した。
「また、何処かで逢えたらいいね」と。ただそれだけの言葉を綴っていた。
 まだ大人になり切れていない私が出来ることはそれだけだった。

 彼の声、微笑んだときの柔らかな表情と穏やかな眼差し。そして暖かな雰囲気。
 上手く言葉には出来ない、何かしらの感情が心の奥底にあった。
 きっと彼に対して何か予感めいたものを感じていたのだろう。


 そして私は幼いころから描いていた夢を叶えるべく美大生となった。
 二年生のときに国内である程度、名のある絵画展で大賞を受賞し、その年の九月に仏蘭西の海外留学を薦められた。

 別に絵なんて何処で描くのも一緒だと思ってはいたけれど、違う国の色彩をこの目で見てみたい。キャンバスに表現してみたいと留学を決断した。

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