憧憬少女

今の時間は17:50。

サラリーマンらしき男たちが、エレベーターを待っているのが見える。

店舗型ヘルスの営業時間は、朝6時から夜0時まで。

キャストがエレベーターを使ったらいけない決まりはない。
だけど、エレベーターの中で客とバッティングするのは嫌だ。

少し薄暗い裏口にある階段。
この階段は、従業員専用の階段だ。

私は今日もこの階段を利用して、2階にある店の裏口扉を開いた。

ーーーー


「ユキちゃん、おはようございます!今日もスタートの18時からラストまで、本指名様でご予約が埋まっていますよ!満枠、ありがとうございます!」

店に入って早々、店長が明るい笑顔で私を迎えた。

店長に会釈をして、割り当てられた部屋に入る。

4畳半ほどの狭い部屋には、シングルサイズのマットレスと、大人が2人入るのが限界の狭いシャワールーム。

簡易的なサイドテーブルの上には、ローションとイソジンとタイマーが用意されている。

私服を脱いで、バッグと一緒にカゴに入れる。
カゴの中は見えないようにタオルを掛けて、サイドテーブルの下へ置いた。

プリティドールのコンセプトである、ベビードールのコスプレに着替える。

鏡を見ると、なんともいえない憂鬱そうな自分が映っていた。

今日も、本指名の客たちが来る。

こんなどんよりした表情をしていちゃいけない。

リップを塗り直して、胸下まであるロングヘアをブラシで整えていると、部屋に備え付けられている内線電話が鳴り響いた。

「ユキです。準備出来ています」

それだけ伝えて受話器を置く。

コール音は、客が案内される5分前の合図だ。

…大丈夫。

私自身を宥めるように心の中で呟き、鏡に向かって笑顔を作った。
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