その青は還る 完結
「簡潔に言いますと、この子に曲を与えてください」木崎はそう言って、ただ俺のほうを見ていた。

 そこで、俺は頬杖をついて、軽く頷いて見せると、彼は口を開いた。

「期間は一年。スタジオの個室は予約してあります。連絡はこの子……、失礼。歌音からさせますので、その通りにしてください。あとは勝手に使用して頂いても構いません。ここまで何か不都合はございますか」

 話を聞きながら、ろくに返事もせずに、短くなった煙草を灰皿に擦り付けた。内容的には何も言うことはないが、大きな問題を押し付けられたように感じた。
 俺が席に着く前から、歌音はつまらなさそうな顔で、携帯を弄っていた。挨拶はともかく、何の反応もないところから、この現状に興味がないように見えた。

「ない。ただ……、お前やる気あるのか」俺は歌音に尋ねた。

「お前じゃない。おじさん」歌音は俺を見て、そう言った。

 思わず口を開いたが、すぐに閉じて、舌打ちした。すかさず歌音が俺を見て、軽く眉を顰めて言った。

「それやめなよ。怖いから」そう口にした途端、「彼女に嫌われるよ。ていうか、彼女いるの?」と言って、続けざまに「いなさそう……。ね、木崎」と彼に押し付けた。そこで彼は少し口の端を上げたが、すぐに戻してから、俺のほうを見ると、軽い苦笑いを浮かべていた。

「俺のことはどうでもいい。お前、歌詞は書けるか」俺がそう言うと、歌音は携帯から視線を上げて、「あるよ、この中に」と言った。やはりと思って、俺は口を開いた。

「そのまま送ってこい。あとは木崎に聞け。じゃあな」

 席を立って個室を抜け出し、カウンターで支払いを済ませて店を出た。コインパーキングに向かう間に、煙草をくわえて、車に乗り込んだ。エンジンを掛けてから、ダッシュボードに携帯を置くと、フロントガラスに雨が落ちてきた。ワイパーのスイッチを入れ、ジッポで火を点け、蓋を鳴らしていた。

 一定の音がメトロノームに変わり、車内が機材のように映っていた。携帯に付いたストラップが微かに揺れて、エンジンの音すら聞こえなくなった。

 そのうちにフロントガラスが曇り、雨がボンネットを強く叩くと、ワイパーが水しぶきを跳ね上げていた。

 吐き出した息が熱く感じて、煙草を消してから、空調を切り替えた。そしてラジオのダイヤルを回すと、豆田の歌が流れてきた。

 自分が作った曲を耳にし、少し開けた視界の先へ、俺はようやく車を走らせていった。
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