その青は還る 完結
それからというもの、気づけば店先に立っていて、すぐに引き返した。金は財布に入れてあるし、いつものように散財してもよかった。だが、それが正しいことのように思えなかった。
ある日俺は、大義名分をつけて、店へ入った。黒服に付いて行く間に、辺りを見回すと、隅の席を片付けているのが見えた。そして、席に着いてから、尋ねてきた黒服に言った。
「あの隅で片付けしてる子、話せる?」
すると黒服は軽く唇を尖らせ、俺が示した方向を確認もせず、思いついたように応えた。
「新人ですので、何か不手際がございましたら、お申し付けください」
「……わかった」俺は頷いて見せると、すぐに黒服はあの子のところへ向かった。黒服が声を掛けると、その子は俺のほうを見て、目を丸くさせていた。そのとき、俺は理解した。そいつは完全に俺を忘れているぞ、と。
そいつが席に来るまでに、煙草を口にしてから、ポケットを探った。少し間を開けて、席に着くなり、ライターの火が差し出された。
「こんばんは、お待たせしました。ご指名ありがとうございます」そう言い終えた顔は、あの時に見たものと何も変わらなかった。
俺は気まずくなって「今日は、制服着てないんだ……」と、ありきたりのことを口にした。
「あ。今日から夏休みなので」そう言って笑ったあと、すぐに「戸田さんはお仕事帰りですか?」と尋ねてきた。
「いや……、俺は、仕事を休んでる」嘘ではないが、ごまかした気分になった。
「じゃあ、サボり……ですか?」そう言ってまた笑って、酒を作り始める。その手は子供じみているのに、酒を作る横顔が妙に大人っぽくて、思わず見てしまった。
「サボりじゃねぇよ……」
テーブルの上にグラスを置いた手から、すぐに目を離した。
「じゃあ、ずるやすみ……?」彼女は不思議そうな顔を浮かべて、まだ何かを取り出そうとしていた。
「学校じゃあるまいし、するわけないだろ」俺があきれたところで、彼女には想像できないのだろう。
「したことないんですか?」それでも食い下がるのは、相手に興味を持つというより、気質のように思える。
「ない。お前は?あるの?」ようやく俺が尋ねると、彼女はすぐに「あります」と真面目な顔をして、「ない人なんているんですね。初めて聞きました」と自分自身を納得させるような顔で言った。
あまりにも方向性の違う話に、大義名分をつけた自分を鼻で笑った。
彼女に何かを言ったところで、とんでもない方向へいくように感じた。
ある日俺は、大義名分をつけて、店へ入った。黒服に付いて行く間に、辺りを見回すと、隅の席を片付けているのが見えた。そして、席に着いてから、尋ねてきた黒服に言った。
「あの隅で片付けしてる子、話せる?」
すると黒服は軽く唇を尖らせ、俺が示した方向を確認もせず、思いついたように応えた。
「新人ですので、何か不手際がございましたら、お申し付けください」
「……わかった」俺は頷いて見せると、すぐに黒服はあの子のところへ向かった。黒服が声を掛けると、その子は俺のほうを見て、目を丸くさせていた。そのとき、俺は理解した。そいつは完全に俺を忘れているぞ、と。
そいつが席に来るまでに、煙草を口にしてから、ポケットを探った。少し間を開けて、席に着くなり、ライターの火が差し出された。
「こんばんは、お待たせしました。ご指名ありがとうございます」そう言い終えた顔は、あの時に見たものと何も変わらなかった。
俺は気まずくなって「今日は、制服着てないんだ……」と、ありきたりのことを口にした。
「あ。今日から夏休みなので」そう言って笑ったあと、すぐに「戸田さんはお仕事帰りですか?」と尋ねてきた。
「いや……、俺は、仕事を休んでる」嘘ではないが、ごまかした気分になった。
「じゃあ、サボり……ですか?」そう言ってまた笑って、酒を作り始める。その手は子供じみているのに、酒を作る横顔が妙に大人っぽくて、思わず見てしまった。
「サボりじゃねぇよ……」
テーブルの上にグラスを置いた手から、すぐに目を離した。
「じゃあ、ずるやすみ……?」彼女は不思議そうな顔を浮かべて、まだ何かを取り出そうとしていた。
「学校じゃあるまいし、するわけないだろ」俺があきれたところで、彼女には想像できないのだろう。
「したことないんですか?」それでも食い下がるのは、相手に興味を持つというより、気質のように思える。
「ない。お前は?あるの?」ようやく俺が尋ねると、彼女はすぐに「あります」と真面目な顔をして、「ない人なんているんですね。初めて聞きました」と自分自身を納得させるような顔で言った。
あまりにも方向性の違う話に、大義名分をつけた自分を鼻で笑った。
彼女に何かを言ったところで、とんでもない方向へいくように感じた。