人は見た目に騙される

雨宮桜都と言う女性


 「ねえ、雨宮さんって……怖くない?」

 昼休み、給湯室の奥からそんな声が聞こえてきた。
 桜都(おと)は手にしていたマグカップを持ちながら、そのまま給湯室を出た。

 「分かる。なんか人形みたい」
 「そうそう。いつ見ても無表情だし」
 「怒ってるのかと思ったら、別に怒ってないんだよね」
 「笑ったところ、見たことある?」
 「……ない」
 「泣いたところは?」
 「もっとない」

 小さな笑い声が続いたが、桜都(おと)は聞こえていないふりをした。
 別に、どうでもいい。
 自分が会社で何と呼ばれているかなど、仕事には関係ない。
 
 雨宮桜音。二十五歳。
 営業部の事務担当で、肩より少し長い黒髪。薄い化粧。飾り気のない服装。
 細身で、派手なアクセサリーもほとんどつけない。
 どこにでもいそうな、目立たない女性だった。

 自分の席に戻るとパソコンを開く。
 午前中に営業から回ってきた見積依頼が三件。
 受注入力が五件。請求書の確認が十七件。
 そのほかにも、取引先から届いている納期確認のメールがいくつかある。
 桜都は椅子に座ると、淡々と作業を始めた。
 
 
 
< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop