人は見た目に騙される
雨宮桜都と言う女性
「ねえ、雨宮さんって……怖くない?」
昼休み、給湯室の奥からそんな声が聞こえてきた。
桜都は手にしていたマグカップを持ちながら、そのまま給湯室を出た。
「分かる。なんか人形みたい」
「そうそう。いつ見ても無表情だし」
「怒ってるのかと思ったら、別に怒ってないんだよね」
「笑ったところ、見たことある?」
「……ない」
「泣いたところは?」
「もっとない」
小さな笑い声が続いたが、桜都は聞こえていないふりをした。
別に、どうでもいい。
自分が会社で何と呼ばれているかなど、仕事には関係ない。
雨宮桜音。二十五歳。
営業部の事務担当で、肩より少し長い黒髪。薄い化粧。飾り気のない服装。
細身で、派手なアクセサリーもほとんどつけない。
どこにでもいそうな、目立たない女性だった。
自分の席に戻るとパソコンを開く。
午前中に営業から回ってきた見積依頼が三件。
受注入力が五件。請求書の確認が十七件。
そのほかにも、取引先から届いている納期確認のメールがいくつかある。
桜都は椅子に座ると、淡々と作業を始めた。