人は見た目に騙される

 その日の帰り、会社を出ると、外には秀人がいた。
 桜都を待っていた。

 「送る」
 「必要ありません」
 「今日は聞かない」
 「……そうですか」

 いつもだと思うのだが、否定しても通用しない相手。
 言われるままに二人で歩き出す。
 しばらくして、秀人が言った。

 「桜都」
 「はい」
 「俺はお前を俺の女だと思ってる」

 桜都は足を止めた。

 「違います」
 「そうか?」
 「私はそういうつもりはありません」

 秀人は桜都を見る。

 「俺にはそのつもりがあるから」
 「……勝手ですね」
 「今さらだろ」
 「そうですね」
 「嫌か?」

 桜都は少し考えた。正直恋愛感情が何か分からない。けど秀人のことは嫌いではない。むしろ自分の中で唯一信頼をおける人だと思っている。


 「……嫌ではありません」

 それを聞き、秀人の表情がほんの少しだけ緩む。

 「なら、待つ」
 「何をですか」
 「お前が俺を選ぶまで」

 桜都はそれ以上答えなかった。ただ歩き出した。
秀人も何も言わず隣を歩く。距離は近い。
 けれど触れない。急かさない。
 ただ、隣にいる。それだけだった。
 少し歩いてから桜都が言った。

 「コンビニに寄ってください」
 「何買う?」
 「鮭のおにぎり」
 「分かった」

 二人は並んで歩いていく。昔の桜都なら一人で帰っていた。誰かと並んで歩くことなど選ばなかった。
 だが今は違う。
 ほんの少しだけ、隣に誰かがいることを嫌だと思わなくなった。
 氷の人形は最後まで笑わない。
 ただ――
 その心の中には誰にも見えない場所で、小さな灯りが一つだけ灯っていた。













 end



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