嗚呼、愛しのアフロディーテ
「私は、坂本くんのこと、知ってるから……」
「は……?」


図書室でちょっと話すだけ。

廊下で見かけるだけ、それだけ。でも……。


「本、すごく丁寧に扱ってくれてるよね」
「…………」
「折り目つけないようにしてくれてるし」
「それは、マナーですから」
「それでも、だよ……」


私は涙を拭って、一歩坂本くんに近付いた。


少しでも心が変わればいい。

死ぬくらいなら、死ぬ気で生きてほしい。


坂本くんが何かを言う前に。

私は坂本くんの身体を抱き締めた。


「死ぬくらいなら、死ぬ気で生きて」

「私が抱き締めたことを思い出なんかにしないで」


坂本くんは決して大きな身体ではない。
背も高い方ではないし、どちらかというと痩せている。

でも、しっかりとした硬さがあって、生きている。


「死なないで」


願うようにそう言えば、坂本くんの体が大きく震えた。



その後、どうしたのか覚えていない。

とにかく顔がぐしゃぐしゃになるくらい泣いていたようで、目は腫れぼったくなっていて、頭も痛かった。


ただ、右手にしっかりと、見慣れない紺色のハンカチを握っていた。
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