甘いヒーローの独り占め

1話


大学校内のざわつきを耳にしながら、山ノ内桜子(やまのうちさくらこ)は講義を受ける教室前で立ち止まっていた。


(緊張する…今日こそ、と、友達作りたい…せめて…話し相手くらい…!!)


下を向いていた顔を上げれば、二つ結びにした髪の毛が揺れた。
桜子はようやく開いているドアから中に入る。

そこそこな人数の受講生を見るが、入ってすぐに席に群がる女子生徒たちに視線を向けた。


「ねー!黒崎くん、もうサークル入った?一緒に回らない?」

「……いや。いい」


女子生徒の中心から聞こえる低い声を聞きつつ、桜子は座る席を探した。
前の席がガラリと空いていたため、集団を避けながら横切ろうとした。

群がる女子生徒のすき間からその姿を見る声の主は、一瞬、動きが止まる。


「桜子?」


名前を呼ばれたことで、思わず斜め後ろを振り返ると、黒髪に目元あたりにかかっている美形と目が合った。
色白の肌も相まって、息をのみかけた桜子は、辺りをキョロキョロと見渡す。

すると、美形が荷物を持って立ち上がると、桜子の方へ歩いてくる。
立ち上がったことで、高身長であることもわかった。


「山ノ内桜子、だよな?」


桜子のフルネームを呼ぶ美形に見覚えがないことがはっきりわかると、桜子は混乱した。


「す、すみません…誰ですか…?」

「…黒崎智也(くろさきともや)」


美形の名前を聞いた桜子は、少しの沈黙のあと、ハッと気づいて口を開く。


「と、智くん…!?わ…え…ここの大学」

「とりあえず、前の席行くんだろ?…俺も行く」


桜子の言葉を最後まで聞かず、空いている前の席に向かう智也。
しかし、ついてこない桜子に気付くと、智也は振り返って顔を上げた。


「…隣。座って」

「あ、は、はい…!」


ようやく階段を降り始めた桜子は、智也について行き、先に席に座る。
智也が端の席に荷物を置いて隣に座ってくると、小さく呟いた。


「助かった…」


バッグからタブレット端末を取り出した智也は、桜子へチラッと視線を向けた。


「久しぶりだな。中学以来か?」

「そ、そうだね…えっと、“助かった”って…?」

「…いや。うるさかったから」


後ろからヒソヒソと話す声に目を伏せると、頬杖をついてフッと笑う智也。
またしても息が止まるような整った顔立ちに、桜子は呆けつつ見つめてしまった。
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