甘いヒーローの独り占め
2話
「……何?」
「あ…っ、その…ぜ、全然気づかなかったから…智くんすごいなって」
「…桜子は変わってないから…気づく」
「え…そ、れは…そうなんだけど…も、もっとこう…服装とか考えようとはしてて…でも、…ちょっと自信なくて…はは…」
智也からの言葉に苦笑いする桜子は、おもむろに前髪を触ってしまう。
タブレットを操作している智也が、顔を上げて桜子をじっと見つめた。
「服は関係ないだろ。昔と変わってない…桜子は」
言葉の意図がわからないままでいる桜子は、思わず首を傾げて智也と視線を合わせた。
先に智也が視線を逸らすと、教員が教室へ入ってきた。
(…じ、地味っていうのは変わらないんだなぁ…智くんは変わりすぎだけど…)
ひとりで気持ちを沈ませていた桜子をよそに、教員が出欠を取って講義を始めた。
桜子は、講義中にふと、子どもの頃のことを思い出す。
…ー
ランドセルを背負ったまま、公園の遊具のトンネルに隠れて泣いていた桜子。
何度も目を袖で拭いていると、ひょこっと、幼い智也がトンネル内に顔を出した。
「桜子、もういないよ」
「ひっく…ほ、ほんと…?」
「うん。おれがやっつけた。こわくないよ」
「…う、うぅ…と、智く…ありが……うええんっ」
智也の言葉に安堵した桜子は、泣きじゃくって何度もお礼を伝える。
すると、桜子の頭をぎこちなく撫でた智也は、口を開いた。
…—
「桜子」
ハッとした桜子は、智也の方へ顔を向ける。
「講義、終わった」
「…へ…あ、う、うん…!」
智也の言葉で、慌てて広げていたノートを閉じて、教室を出る準備を始めた桜子。
じっと見ていた智也は、口を開こうとしたが、ポケットで震えるスマホを取り出して視線を移した。
荷物をカバンに入れた桜子は、懐かしい思い出に少しだけ笑みをこぼす。
スマホの操作をしながら、席を立つ桜子を待つ智也。
すると、QRコードが映る画面を桜子に見せてきた。
「え…?」
「連絡先、教えて」
途端に、まだ教室に残っていた女子生徒のざわめきだつ。
女子の声を聞いた桜子は、焦る気持ちを抱いて、苦笑いしながら手を左右に振った。
「あ、えっと、今日スマホ忘れちゃって…!」
「………」