姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
第一章
麦と睦美
双子の姉、睦美が私の部屋に入ってくるなり「決めたの」と言った。「なにを?」と聞き返すよりも早く、にこり、と綺麗に目を細める。
……。
嫌な予感がした。こういう笑顔の後にはいつだって無理な要求があるからだ。
「私たち、アナウンサーにならない?」
「……」
“私たち”と睦美が指定する時は、結末に至るまでの台本ができている。
「むーちゃんなら絶対なれるよ」と友人たちから応援される自分と、「は、あの子がなれるわけじゃん」と失笑される妹――最終試験までなんなく進むであろう自分と、当然途中で振り落とされる妹――
きっと睦美は周囲の人たちにこう言うだろう。
『私は、妹の麦ちゃんがどうしてもっていうから……つきあって試験受けただけなの』
これまでも似たようなことはたくさんあった。
「……むーちゃんにはぴったりだと思う。でも、私にはアナウンサーとか向いてないよ」
私は顔を伏せたまま、精一杯の意思表示をする。
「だからむーちゃんだけ――」
睦美のスリッパの足が躊躇なく私の脛を蹴った。
「私が一緒にって言ってんの。なにくちごたえしてんのよ」
「……」
「まあ、なりたいっていってなれる職業じゃないけどね」
ドスをきかせた後で、睦美はまたにこり、と微笑んで会話を続ける。
「今日の夕ご飯の時、『麦ちゃんから一緒にアナウンサー目指して、って頼まれた』ってママに言わないと」
「……」
やっぱり、そうなるよね、と私は静かにあきらめる。
それに伴う費用を、親がまた二人分用意することになるだろう。
「まずアナウンススクールに申し込まなきゃ」
睦美は人差し指を天井に向け、歌うように言った。
「なにが必要か調べておいてくれる?」
委ねているが命令だった。
「……うん」
「じゃ、また夕ご飯の時呼びにくるね」
機嫌を良くした睦美が部屋を出ていって、私は緊張を解く。
……将来、か
全然ぴんとこなかった。
私はいつからか、あきらめている。
自分が望むことはなんなのか、やりたいことはなんなのか、
自分を知ることをあきらめて、あきらめることにも慣れていた。
――私は宮原麦。
春から大学生になった。
勤務医の父と看護師の母の希望で内部進学できる大学付属校を中学受験し、奇跡的に姉とふたりで入ることができた。
あの当時、リセットできない人生がどんなに苦しいものかを知っていたなら、泣いて縋って頼んだだろう。――どうかお願い、お姉ちゃんとは違う学校へ行かせてと。
だけど、なにもかも今更だし、過去の選択を悔やんだって無意味だ。それに……
左右に首を揺らす。
……しょうがないよ、私が、悪いんだから
その結論に行き着いて、感情を閉じ込める。