姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


   *
 
 キャンパスを歩いていると、背後から「ちょっと」と不機嫌に声を掛けられた。
 首だけ斜めに落として振り返る。
 睦美の友人たちが渋面で私を見ていた。

 睦美の友人たちは皆、オシャレで可愛い。
 睦美自身が“そういう子たち”を選んでそばに置いているからだ。
 比べて私は、睦美に言われた通りのだぼだぼのパンツに着古したトレーナー姿。

「……」
 またなにか因縁をつけられるのかと警戒しつつ、古びたショルダーバッグの紐を両手でぎゅっと握って俯いたままでいた。
 封筒を突き出された。
「これ、むーちゃんに渡しておいて」
「なに?」
 反射的に聞くと尖った声が返ってきた。
「あなたが知る必要ないけど?」
「黙って渡しておけばいいの」
「そのくらいできるでしょ」
「……」
 反論する気はない。
 黙って受け取って歩き出す。
 
「陰険ブス」
「いつまでむーちゃんにくっついて生きてくつもりだろうね」
「むーちゃんの人気にあやかろうとしたって無駄なのに」
「……」
 背後から私に聞こえるように放つ悪口にはもう慣れた。
 それに、彼女たちが悪いわけではない。
 彼女たちは睦美から聞いた私の素行が許せないと、正義感に燃えているだけだから。

 私は、黙認している。
 睦美が、痛めてもいない手首に包帯を巻いて『実は妹が……』と濁すこと。
 出たくない授業や行事には『妹に靴を隠されて』『閉じ込められて』と私の妨害が欠席の理由になっていること。
 飽きた恋人や言い寄る男を切りたいときには『妹が誘惑した』と噂を流すこと。
 
 
「いい、麦ちゃん。これは私が麦ちゃんを許せるようになるための最後の方法なの」
「……わかってる」
「私は麦ちゃんに一生消えない傷を付けられた。お風呂で裸になって胸の傷を見るたびに、泣いてる」
「……ごめん」
「私はきっと結婚できない。カレシを作っても体を見せる前に別れるしかない。だってこんな醜い傷痕見たら、誰だって逃げていくよ。それでなくとも私、体が弱いのに……」
「……ごめんなさい」

 睦美は仕方なく私に嫌がらせをしている。
 それを理解しているから、私は周囲の誤解を解いたりはしない。
 睦美と似ているだろうこの顔を不揃いの前髪で覆って、眼鏡の目は常に地面に落として、わざと根暗にふるまう。
 
 “――あの日、あの時、なぜあんなところに登ってしまったんだろう”
 
 そう思わない日はなかった……。
 
 
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