姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 
「――――なの……麦ちゃんの嘘だよ? ねえ、パパは私のこと信じてくれるよね?」
 玄関で靴を脱ぐ前に睦美の引き攣ったような声が聞こえてきた。
 睦美の言葉からして、母が私のことを伝えたのだろうと察した。
「麦ちゃんは、昔から“そういう子”だったでしょう? 私ずっと苦労してきたもん」

 はっ……
 思わず顔を歪めた。この期に及んでもまだ、睦美は私を悪者にするのだ。
「パパだって知ってるでしょう? 麦ちゃんがいつも怒ってて、イライラしてて、不機嫌なこと」

 ……。 
 昨日、自分の嘘が私にバレたことを知ったはずなのに、睦美はまるで悪びれていない。

 ……はあ、
 怒りとやるせなさで、私の体は痺れたようになる。
 あと数歩でリビングなのに、足が動かなかった。

「こんなこと言いたくないけど……、麦ちゃん、心の病気なんじゃないかな、虚言癖まで出てきたんだもん、ねえ、パパ、それしか考えられないよ」  
 睦美の言葉はすべて父に向かっている。
 母の説得をあきらめたのだろうか。そして『自分の親でもある』父なら、味方になってくれると信じているのだろうか。

 ……パパは、睦美を許してしまうのかな、
 さっきの表情は、私の願望だったのかな、

 数十分前、父の愛情をその目の中に確かに感じた。
 『もう心配ないからな』――そう言ってくれているようだった。
 だけど父は、さっきから一言も発していない。
 
「あなたはどこまで麦を貶めるの、もうたくさんよ、嘘ばかり」
 その代わり、母の声は低く、怒りに満ちていた。

「パパ……、私、嘘なんてついてない、本当だよ」
 睦美の声はやはり父にだけ向かっている。
 
 ……。
 私は、ぐっと顎を上げた。
 睦美に罪を問う母のため、心を強く持つ。
 足を一歩、踏み出した。
 
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