姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

誰が、誰を許すのか


  *
  
 ――――「麦」
 門扉の前で家に入ることを躊躇していると、車が近づいてきた。
 運転席から名前を呼ばれた。


「あ、……パパ、……ママも」
 ハンドルを握っているのは父で、助手席には母が座っていた。

「ふたりで……どうしたの」
 理由なんてひとつしかないのに、確かめずにはいられなかった。
 ふたりの慈愛に満ちた表情が私の心を揺さぶり、安心させてくれる。
  
「昨日お友達のところに泊まったのよね、……今、帰りなの?」
 夜勤の母には、外泊のことをメールで伝えていた。
 睦美と対峙して、傷痕の嘘を暴いたことも。

「う、うん。家に睦美しかいないって知ってたから、帰れなかった」
 今、両親に甘えたくてたまらなかった。
 父も母も切なそうに私を見ているから。

 私はそろりと近づいて、父が全開にしたドアに両手を掛けた。
 至近距離で向き合うと、ふたりが腫れた私の頬を見て絶句した。

「……」
「……」
 何も言わずとも、この頬が誰にやられたものかふたりに伝わっていると理解できた。 
 
「ごめんね、麦。もう大丈夫よ。麦……本当に、ごめんね」 
 母は涙を堪えるみたいに下唇を噛んだ。
「麦、少し時間を置いてから家に入っておいで」
 父は家の方角に視線をやって目を細めた。
 その声は、静かだけれど厳しいものだった。

「わかった」
 ふたりともはっきりしたことは口にしなかった。
 だけども私の心は満たされていた。母の言葉を唇の中でなぞる――もう大丈夫
  

 父の言う通り、家のそばで少しスマホをいじって時間を潰した。
 さっき別れたばかりの碧と麗とも、グループ内でメッセージのやりとりが続いていた。

麗:ふたりで帰ってきたなら
しっかり話し合った証拠だと思う!
きっと、むーちゃんを守ってくれるよ

碧:必要なら、俺も状況を説明するよ!
待機してるからいつでも言って
  
 私は、『ありがとう』と『なにかあったらすぐ言うね』と返した。
 
 昨日、あれから麗と合流し場所を変えて三人で喋った。
 私の復讐が成功し――と同時にそれぞれの秘密がなくなり、そのことさえも盛り上がる要素となってお喋りが止まらなかった。 
 夜になり、私はそのまま麗の家にお世話になった。
「――あ、れいちゃんち、行く?」
 私の宿泊先が決まると碧がもごもごと不満そうになにか言い始めて、麗に「まだ早いっ!」と一喝されていてちょっと笑えた。
  

 ――じゃあ、そろそろ行ってくる!

 私はふたりにメッセージを送り、エールを受け取ってからスマホをポケットに入れた。
 少し呼吸を整えて、静かに、家に入った。
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