姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 睦美は、徐に部屋の中へと戻った。
 
 いつ父がそのドアを開けて出て行ったのか分からなかった。
 頭の中がジジジジ……と乱れている。

 スマホを再び手にした。
 父が訪問する前に見ていた画面が出てきた。

 両手で持って、スクロールした。
 下の方に、見覚えのある外観とカフェの店名が出てきた。
 飲み会の様子が載せてあった。
 
 !
 心臓がばくん、と音を立てた。
 投稿の日付は、睦美が碧と待ち合わせた日だった。
 睦美は血走った目で背景を凝視した。
 会場の背後にスクリーンが見える。誰もいない“あの”部屋が映っていた。
 碧と待ち合わせて、麦がやってきて、麦を罵倒し頬を張ったあの――

 ……なに、これ
 ……まさ、か……?

 指を動かして、他になにか――、映っているかもしれない写真を確認するも、途中からスクロールがうまくいかなくなった。
 自分の指が大きく震えているのだ。
 止めようと思えば思うほど腕全体に、それは広がっていった。

 思わずスマホを手から離した。
 床に落ちたスマホが鳴った。

 ……え?
 画面に見知らぬアカウントからのコメントが流れていた。

『動画見ました、ひどいですね』
『人間じゃない』
『妹にここまでするって引く』
『アナウンサーとか無理でしょ、ここまでバレたら』 

 通知が止まらない。
 睦美は両手で頬を覆った。
 そうして知った。
 味方がいなくなった世界に、ひとり残されたことを。

 麦ちゃん……
 睦美は『妹』の名を無意識に呟いていた。
 こんな世界に、麦はずっといたのだと、気づいたからだ。

 
 全身の力が抜けていった。
 睦美は部屋の隅に座り込んだ。



【睦美視点・終わり】
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