姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「……」
 父の目に、失望とも絶望とも取れる動揺が広がっていた。
 
「睦美……、麦に謝る気はないのか」 
「強要されることじゃないんで」
 睦美は正論を唇に乗せた。
 その途端、父は目を真っ赤にして裏返ったような声を向けてきた。 

「なぜあんな残酷なことができたんだ。仮にも、自分の妹だろう。私たちが憎いのは仕方ない。だが麦にはなんの罪もなかったじゃないか」
「――罪がない?」
 聞き捨てならない、と睦美は思った。
 だから吐き捨てるように教えた。

「“あの日”、麦が私を見捨てたの」
 口にしたら、氾濫したドブ川のように記憶と言葉が溢れてきた。

「自分だけ助かって、倒れた私をあの場所に置いてった。醜い、汚い、最低な子に育てたのは自分たちじゃない。なのになんで私が謝らないといけないの」
 
「睦美……よく聞きなさい」
 父は抑揚を抑えた声を向けた。
「麦はちゃんと君のことを、“大人”に伝えた。伝えたことに安心して気を失った。
 君をその場に残してしまったのは、それを伝えられた人が、気が動転して麦を先に他の大人に託しに行ったからだ。そうして公園に引き返した時、君は自らの足で家に戻っていった――そのことを私も李加も、報告を受けた」

「……え?」
「君は覚えていないだろうが、李加は一度家に戻って、眠っている君が本当に怪我をしていないか確認し、また病院へ戻ったんだ」
「!」
「そのことに触れなかったのは、君が、怪我をした麦に罪悪感を持っては可哀想だと思ったからだ」
「……」
「アナウンススクールの授業料は出そう。――それで最後だ」
 
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