姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「もちろん! 私も会いたい……あ、でもね」
「どうしたの?」
「しばらくは私たちのこと誰にも話さないでほしいの」
「誰にもって、どうして?」
視線を地面に落とす。
「手紙……無視しちゃったから気まずくて」
「どうして無視したか、聞いてもいい?」
「いつか、打ち明けるよ……」
困惑している碧の手を取る。
ほろりと涙が零れた。
ここぞという時に泣けるのは睦美の特技でもあった。
加えて、親のために先回りして演じ始めた病弱な設定も、睦美の“儚げ”な印象を下支えした。
「いつか必ず理由を話すから」
睦美は碧を見上げた。
「今は私を信じて、会ったことも内緒にしてほしい。じゃないと私、私……」
「むーちゃん……」
麦のふりをした台本ならすでに頭の中で書き上げた。
――『麦は、ある日突然現れた双子の姉に醜い嫉妬をぶつけた』。
掴みはこれまで同様、周囲にこっそり打ち明けてきたものと同じでいいだろう。
麦の評価を落としてから――『今の麦を見て幻滅してほしくなかった』と優しい姉の立場から弁明しよう。そして『麦のふりをすれば碧の大切な思い出を守れると考えた』と切々と訴え、泣こう――。
完璧だ。
「約束、してくれる? 今日私に会ったことは誰にも言わないって」
碧を見上げる。
カラーレンズの目元に懇願する。
「お願い」
「……」
碧が肩を下げた。
「わかったよ。だから泣かないで」
流れてきた涙を指先で拭われた。
「……」
指の冷たさになぜだか、ゾクリとした。
この冷たさが、いつか激しい熱を発して自分に向かってくることを想像すると気分が高ぶった。
……この男、絶対に手に入れよう
演じ切ってほっとした、その一瞬に入り込んだ衝動は“ときめき”に似ていた。
【睦美視点終わり】