姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


   *
 
 碧が過去を懐かしがり、麦との思い出を口にする毎に、睦美の記憶も当時に飛んだ。
 
 睦美はあの日一度死に、憎しみを携えて生き返った。
 先に裏切ったのは麦だ!
 それに――
 同じ姉妹なのに自分だけが生まれた瞬間から歓迎されなかった。
 麦が憎い! 憎くてたまらない!

 手始めに、麦が手にしていた絶対的な安心と平和な日常を根こそぎ奪って自分のものにすると決めた。そうすれば他人に愛を分け与えてあげようなんて思い上がった性根も直るはずだから。



 ――「アオくん、いっぱい頑張ったんだね、えらいね」

 碧からの「今までお互いがどうしていたか教え合おう」という提案をさりげなく受け流し賞賛を浴びせ続けた。

「誰でもが耐えられることじゃないと思う」
 何度も手術を乗り越えたという話に涙を潤ませる。
「それにこっちの大学に編入するなんて、すごいよ」
 動物学についての学びを深めたいのだと聞き、唇の前で両手を組む。
「そっかあ、将来は獣医さんかあ」
 すでにアニマルセラピーの資格をいくつも取得していることに尊敬の眼差しを向ける。

「むーちゃんも犬派だったよね」
「犬は可愛いもんね」
 睦美はにこにこする。
 麦が犬好きだなんて初めて聞くが、以前の麦がどんな人間だったのかうっすらとしか思い出せないのだから仕方がない。
「むーちゃん、いちごパイは食べないの?」
「え?」
「今フェアやってるって、ここに書いてある」
 碧が指したメニューに視線を向ける。
 麦はいちごが好きだったのだろうか? 睦美は素早く記憶を辿る。
「えっと、ダイエット中だし私は遠慮しておくね。アオくん、食べる? 注文しようか?」
 面倒になりはぐらかした。
 麦の嗜好にも感情にも興味がない。子供の頃にいちごが好きだったにしても大人になり変わることもあるだろう。もし突っ込まれたらそう言えばいい。
「むーちゃんにダイエットなんて必要ないんじゃないかな」
「そんなことないよ。油断するとすぐ太っちゃう」
 こういうと大抵の男は「ちょっとぐらい太ってた方が可愛いよ。俺はむーちゃんが太っても気にしないよ」などと言ってくる。案の定、碧も似たようなことを口にした。


   *

「むーちゃん、また会えるよね?」
 別れ際、ファミレスの前で碧が切ない声色を向けてきた。
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