姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
―――「麦ちゃんはジャージがいいよね」
「……うん」
学校の制服を脱いだら今度は学校のジャージを着る、睦美に言われた通りに。
それを知らない母は買い物にいくたびに「好きな洋服を買ってあげるから選びなさい」と言ってきた。ある時、一度だけ選んだ。タイトなサロペットスカートに袖が膨らんでいる綺麗な色のカットソー。――可愛いな、着てみたいな、と思ってしまった。けれど睦美にズタズタに引き裂かれゴミ箱に捨てられた。そして母に“告げ口”された。
「ママ……、麦ちゃんがね、夜中にハサミで……。『服なんかいらない』って怒って」
ゴミ箱を抱えた睦美は切なそうにしていた。
あれからも母は、「好きな服があったら買っていいのよ」と時々言ってきた。
……それができないこと、どうして気付いてくれないの――その不満が表情に出るせいか、母はいつからかなにも言ってくれなくなった。
「そろそろバイト代入るでしょ、初めての給料で服を買うのはどう? 自分への『がんばった!』っていうご褒美で」
「あ、えっと」
私は返事を濁す。
バイト代はすべて睦美の手術費用へ回すと決めている。一日でも早く睦美の傷を治して、睦美に許してもらいたいから。
「……とりあえず、このままでいいかな。アオくんは外見とか気にしないと思うし」
何も考えず口にしたら、麗が目を丸くした。
「うわー、ふたりして同じことを言ってる」
「え」
「アオくんもむーちゃんがどんな外見でもどうでもいいんだってさ」
「アオくん、変わってないんだね」
記憶の中の碧なら、そう言うだろうと想像できて嬉しくなった。
「うん、性格は昔のまんまだよ。おとなしくて、屈折してて、残念なことに毒吐きキャラも健在だったわ」
「はは。それは楽しみ」
それから私たちは碧との三人での日々を懐かしがった。
――出会った頃から碧は一癖も二癖もあった。