姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 
 初めの日こそ、突然部屋に入ってきた年下の女の子たちに気圧された様子だったが、訪問を続けていると素を見せるようになった。

「ぼくといてもつまらないでしょ、どうせ目もあんまり見えないし」
「んーでも、目が見えにくいこととつまんないことはかんけいなくない?」
「ぼくがこんなじゃなかったら、友達になってないよね」
「それはそうだよ。アオくんママはうちらに声かけないよ。ね、むーちゃん」
「うんうん」
 碧はかなり屈折していたが私も麗も実はあまり気にしていなかった。鬱々とした感情を吐き出す碧を『ただの素直な男の子』と認識していたし、いちいち答えを返していた。
 ある日、碧は「引き出しに入ってるノート見て」と言い出した。

「アオくんが書いたの?」
「うん、もうちょっと見えてるときにがんばって書いたんだ」
 麗とふたりでページを捲ると名前がずらりと並んでいた。その横には不穏な言葉が書かれていた。まるで呪いの日記だった。

「ひえー、アオくん、これはなんなの?」
「ぼくがこうなってからにげていった人の名前と、そいつらがどう不幸になるか――を書いたんだ」
「そーぞーりょくがすごいね」
 私と麗は本気で驚いた。学校の友達、水泳教室の仲間、大人の名前もあった。それぞれに違った不幸の結末が書かれていた。
「じわじわと苦しんで、死んだ方がマシだって言いたくなるような未来がいいな」
「なるほど」
 そうして私たち三人は真面目に「この方法だと即死じゃない?」とか「これはなまぬるいと思う」とか言い合った。

 そんな風に打ち解けても、碧は突然殻に閉じこもった。
「むーちゃんもれいちゃんもケーキが食べたいだけなんでしょう。ほら、食べたんだからもう帰ってもいいよ」
「なんでそう追い出そうとするの!」
 麗はきーきーと騒いで、碧は「ぷい」と横を向く。そのたびに私はふたりの間に立ち手を繋がせたり宥めたりしていた。

「ふつうのことができないぼくといたって、やれることがあんまりなくてつまんないでしょ」
「ぼくに合わせる必要ないからさ」
「人生終わったぼくと一緒にいるって、ヒマだね」
「ぼくといると時間過ぎるのおそいでしょ」
 その都度一蹴しても、碧は何度でも言った。
 途中から麗も私も気づいた。碧が口にしている言葉は、これまで自分に投げつけられたものなのだと。

「もーいいかげんにしな? うちらが楽しくないことをすると思う?」
 麗はいよいよ言った。
「そうだよ」
 私も伝えた。
「うちらはアオくんと一緒が楽しいからここにいるんだから!」
 子供の語彙力では的確な励ましにはならない。けれど私たちの剣幕に碧ははっとしたような驚いた表情になった。そして、静かに泣いた。
 湿った場が苦手な麗は『げっ』という口元を作って「ちょっとトイレ~」と逃げ出してしまい、部屋には私と碧だけになった。

「アオくん、なかせてごめんね」
 使命感を携えた私は、碧の涙を拭きながら謝った。

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