姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

「ドアちょっとだけ開けておいて」
「あ、うん」
「リビングにいるアオくんが油断して気を抜いたところに、ふたりでジャジャーンと登場しよう!」
 楽し気に企む麗につい、頬が緩んだ。子供の頃に戻ったみたいな既視感がある。
「アオくん、怒るんじゃない?」
「ふん。むしろ怒らせたいよね」
「謎の挑戦状!」
 なんでもない会話が楽しかった。ここに碧が加わったらと想像しただけで心が弾む。

「ねえねえ、玄関からこっちの部屋に入ってきたら意味なくない?」
 自分たちがいる部屋を指す。
 麗がきっぱり言い切った。
「私はまっすぐリビングに向かうと思う。だってビーズクッションがあるじゃん」
「はは。根拠ってそれなの?」
「帰ってきたらまずくつろぐのが人間なのよ」
「納得できるようなできないような」
「それもひっくるめて賭けだね。むーちゃんどっちに賭ける? 私はリビング直行」
「じゃ、じゃあ私は『こっち』に直行で」
 自分たちが潜む部屋を指す。
 他愛のない遊びに笑い合っていると麗のスマホが鳴った。

「うわ、店からだ。なんかトラブルかも。ちょっと外で取るね」
「うん、わかった」
 私は黙って麗を見送った。
 いくら幼なじみだとはいえ、麗の立場ではいちバイトの前で職場のトラブルについて口にはできないだろうから。

 どのくらい時間が経っただろう。大した時間ではなかったと思う。だからドアが開いた時、麗が戻ってきたのかと思った。けれど声はふたつだった。男と、女。女の方は私がよく知る声だった。



「――おじゃまします」
 足音と声が近づいてくる。
「正面がリビングだけど、引っ越したばかりでまだ何も揃ってないんだ」
「そっかあ、でもこれからひとつずつ買い足していくのも楽しいよ。私でよければ、一緒に買いに行こ」
 !
 女の声は間違いなく睦美だった。私の体は一瞬にして硬直した。……どうしよう……睦美が来るなんて……でもアオくんと今日会うのは私たちのはずじゃ……違うの? もしかして日にち間違ったの? どっちが?
 頭の中で疑問がぐるぐる、ぐるぐる、回る。

< 31 / 134 >

この作品をシェア

pagetop