姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


「アオくんのはそっちだよ!」
 ふたりはぼんやりしか見えない碧にも遠慮はなかった。
「そっちってどっち?」
 だから碧も気兼ねなく聞いた。
「これこれ」
 手を掴んで握らせてくれる。
 そんな風に重ねる日々の中、碧の世界は色を失いつつあった。ぼんやりと見えていたふたりの顔にも靄がかかり、目を凝らすことが多くなった。完全に見えなくなるのはいつだろうと、それを想像すると気が狂いそうに怖くなった。
 親は碧のために渡米を選択した。

「がんばれなくなったら、お母さんにたのんで手紙を書くよ」
 子供だった自分たちには連絡手段が限られていた。
「がんばってても書いて! どうでもいいこともだよ!」
 麦がすぐに反応した。
「これ、うちらの住所だからね。なくしちゃだめだからね」
 手の中に折り畳まれた紙を握らせてくれた。
「うん。ぜったいなくさない。着いたらすぐに書くよ。ぼくの住所も教えたいし」
「ねえねえ、うちらエーゴよめる?」
 麗の心配は当然のことだ。
「……」
 無理強いできず口籠ると麦がすかさず言った。
「エーゴで書くのは住所だけでいいってうちのママが言ってたよ。だからアオくんママが書いてくれるとおりに、ゆっくりまちがわないで書けばだいじょうぶ! ちょうせんしてみよっ、れいちゃん!」
 麦はどこまでも真っ直ぐで、勇敢で、皆を元気にした。そんな麦に特別な感情を持つのは自然なことだった。
 


 ――「むーちゃんも犬派だったよね」

 噛み合わない会話もそうだが、思い出のひとつも口にしない『むーちゃん』に違和感を覚えた。そもそも碧の知っている麦は質問をはぐらかしたりしない。


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