姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 『むーちゃん』と会話をしながらも素早く記憶を整理した。

 いくら年数が経ったとはいえ、ここまで性格が変わることがあるのだろうか。麗から聞いた麦の現在の様子ともまったく違う。麗の名を出しても無反応だったし。けれど『むーちゃん』と呼びかけた声に自然と振り返った……。
 もしかして麦の姉か妹? ――そんな話は聞いたことがない。それにもし麦じゃないとしたら、自分を『アオくん』と認識するだろうか。目のことも知っていたのに……。
 ということは『この女』は自分の知っている『むーちゃん』で間違いないのか?

 ……いや、そんなわけない
 自分自身に何度も問いかけ、打消し、碧は結論に至った。
 自分の直感が“違う”と言っているのだ。


 ――むーちゃんも犬派だったよね
 碧は慎重に仕掛けた。
 犬が苦手だったのは自分だ。『むーちゃん“も”』と問いかければ突っ込んでくるはずだ。
「犬は可愛いもんね」
「……」
 にこにこする『むーちゃん』に、碧も仮面を付けたまま笑う。
「むーちゃん、いちごパイは食べないの?」
「えっと、ダイエット中だし私は遠慮しておくね。アオくん、食べる? 注文しようか?」
「……」
 碧は閉じた唇で笑いかける。
 麦であれば、碧がいちごを苦手なことぐらい覚えているはずだ。
 ……間違いない。この女は麦(むーちゃん)じゃない
 
 偽の『むーちゃん』と別れた後、碧は考えた。
 疑問のすべては、なぜ麦のふりをしているのか、だった。
 麦の姉妹であると仮定した場合、過保護か悪意かそのどちらかだろうと予想はついた。前者であれば信頼を勝ち取らなければならないし、後者であれば麦を守らなければならない――ただ感覚的には、後者である可能性が高い気がした。

 悩んだ末、麗にメールした。

碧:むーちゃんに会ったよ
麗:わお! やること早いね
 冷やかしの言葉は受け取れなかった。
碧:会ったんだけどさ…
麗:うん? なんか悩んでる?
碧:まるで別人だった
 ――すかさず打つ。
碧:今電話いい?
麗:いいけど

「『むーちゃん』の偽物がいるんだ」
 碧は、彼女との会話や様子をくまなく伝えた。

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