姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「うわ、俺がトップバッターか」
「当然じゃん、最初にいなくなった人からだよ、ね、むーちゃん」
「そうだね」
睦美のデートの相手が碧じゃないことが嬉しく、懐かしい空気間が心地よかった。
「なるほど」
納得してない顔で了承する碧の子供っぽい表情が昔の記憶と重なった。
碧が口を開く。
「むこうに渡って手術を数回して、その後は日本に戻ってきて父さんの―――」
「ちょ、ちょっと待った!」
麗が碧の話を遮った。
「日本に戻ってきてたの? いつ?」
私たちは驚いて、そろって碧の口元をみつめた。
「実はさ……」
それから碧は北海道で両親と暮らしていたこと、時々長い入院生活を送ったこと、そのため通信制の学校へ行ったこと、牧場の手伝いで獣医と出会い将来が決まったこと……などを話してくれた。途中、新幹線が到着し、三人で座れるシートに乗り込み、また話の続きに戻った。
「AO試験で大学に行って、ようやく人並みの青春時代を過ごしたかな。友達が出来て、いろんな人と交流して、短期のアルバイトもたくさん経験したし」
碧は順を追って過去を振り返り、この春からは東京キャンパスに移って動物人間関係学を専攻していると締めくくった。
「ふたりに会うのは、治療とリハビリが終わって、自分の人生設計のスタートを切ってからって決めてて」
碧がしていた決意に、私と麗は一緒のタイミングで声を上げた。
「勝手に決めないでよ」
「ちょっとみずくさい」
ひとりで頑張らなくてもよかったのに。辛く、苦しい時に頼ってほしかったのに。励ましたかったのに。
泣きたいような切ない気持ちになっていると、隣から麗が言った。
「友達なのに遠慮されたら寂しいじゃん」
「!」
その言葉に、はっとする。
……私も、同じだ……アオくんのこと、言えないや
今頃気がついて、衝撃に打たれた。
「うん。今は反省してるよ。プライドなんかいらなかったって」
「……」
碧の言葉にも、頷くばかりだ。
……私も、何度でも、手紙書けばよかったんだ、返事を待つだけじゃなくて
「まあ、反省してるなら許してあげる」
麗が大仰に言った。
その言葉が、碧にだけじゃなく私にも掛けられていると理解した。
「次はれいちゃんだね」
碧に指名された麗はシートから身を起こした。
「あーあー、あー」
わざと発声練習のような声を出して、笑いを取る。
「私の過去もなかなか大変だったよ」
そして私と再会した時に話してくれた過去のことを、碧にも話した。
「ほんとだ、けっこう苦労したんだね」
碧は、貧困時代の節約話に興味津々のようだった。
「でも今は逆転して、これでも『社長令嬢』だからねッ」
どうだ! という鼻息を吐き出した麗に私も碧も拍手で称えた。
「最後は、むーちゃん!」
麗の報告が終わり、私の番になった。