姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
私は、ちら、と麗を見た。
……私のこと、どこまでアオくんに伝えてるのかな?
アイコンタクトだけで麗が察してくれた。
麗が首を横に振った。
「むーちゃんから直接聞いた方がいいだろうと思ってさ」
「……そっか」
私は静かに頷く。
私の身に起きた“ほとんどのこと”は麗に話してある。『碧と睦美が会っている』ということ以外のすべてを。であれば―――
「アオくん、ひとつだけ、聞いてもいい?」
「うん? 何でも聞いて」
私は、声が震えませんように、と祈りながらなるべく明るく聞いた。
「今って、好きな子いる?」
「!」
一瞬にして碧の頬が赤らんだ。
……あ、いるって、ことだ。それは……
「もうつきあってる、とか?」
「あっ、いや、まだ告白も、してない、し……」
急に落ち着きがなくなった碧から目を逸らして続けた。
「でも、手応えはあるよね」
「えっ、ある、のか、なあ。あったら嬉しいけど」
碧は照れる口元に手を添えて、広がっていく笑みを隠した。
「……」
……なんだ、アオくんも睦美のことが好きになったんだ。じゃなきゃメッセージのやりとりなんかしないか、そりゃ、そうか……
……。
あきらめの笑みが漏れた。
飛び出してきてしまった碧のアパートで、裸になった睦美と碧がその後どうなったかなんて、聞くだけ野暮だ。
「了解」
私は吹っ切るように顔を上げた。「じゃ、私の番ね」
頷く碧と麗に押されるように言葉を繋げた。
「ふたりがいなくなって、突然私にお姉ちゃんができたの、睦美って名前の」
あえて名前を出した。碧が、睦美のことを打ち明けやすいように。
「しかも私とは双子なんだって」
けれど碧に変化はない。
もどかしい気持ちのまま、踏み込んだ。
「睦美も、みんなに“むーちゃん”って呼ばれてる」
碧は静かに頷いた。
「……うん」
!
“うん”って、なに?
「……」
「……」
数秒、眼鏡越しの碧と視線が絡まった。
……もしかして、気まずくて言い出せないの?
「むーちゃん? 大丈夫?」
麗に背中を擦られ、自分の上半身が丸く落ちていたことに気づいた。
「あっ、うん、ごめん……」
混乱したまま必死に笑顔を作った。
「苦しかったら無理に今言わなくてもいいよ、まだ旅は長いしさ」
麗の気遣いに、作った笑顔が強張った。
――今言わなくてもいい……
いや、今言わなかったらこの先言える気がしない……
重たい額を片手で支えた。
“ここにいる碧”は、私の幼馴染みで初恋で、大切な友達、
睦美と出会ってしまった碧ではなく―――
自分をなだめるための落としどころを、必死に探る。
ファミレスで向かい合う碧と睦美を見たことは幻で、碧のアパートでの一部始終も記憶違いで、“私はふたりが出会ってしまったことを知らない”――そう思い込んでみる。
弱く首を振った。
……さすがに、無理があるよ
麗と碧がコソコソとなにか話している。
焦燥感の中、冷えていく思考で結論を急ぐ。――どうしたらいい?
本当はなにもかもぶちまけたい。睦美のせいで苦しんできた、そのことを碧にも憤ってほしい。睦美を憎んでほしい。私の、味方になってほしい。そんな睦美のことを好きにならないでと叫びたい。……だけど碧は、もう睦美と出会ってしまった。そして私に、睦美とのことを隠している。――それが、碧の答えだ。
だったら私の結論はひとつしかない。
私は、碧には睦美のことを話さないと決めた。