姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「……光輝君、昨日どこまで記憶あるの?」
「え? ああ、飲み会終わるのを李加ちゃんが待っててくれて一緒に帰っただろ、家着いてから急に酔いが回ってさ、そこからは李加ちゃんが……」
「……」
背後から底なしの闇が迫ってきた感覚だった。
李加は乾いた唾を飲み込んだ。
「……急に、酔ったの?」
「李加ちゃんが水飲ませてくれたから安心したのかなあ」
光輝はペットベトルを飲むジェスチャーをした。
「……」
「っていうか、李加ちゃん、あんなすごい下着、いつ買ったの」
光輝がもじもじと言って李加の手を握った。しっとりしていた。
ささやくような声が言う。
「そのまま脱ぎっぱなしだったから、ちゃんと“洗濯ネット”に入れといたからね」
色気と無邪気が混在した眼差しが李加を愛おしそうにみつめた。
「……」
――ガチャ、とドアが開き、李加は光輝と共に弾かれたように離れた。
「おやおや、職場恋愛中のところ申し訳ないけど、師長が呼んでたよ」
自分たちの関係を温かく見守ってくれている光輝の先輩医師だった。
「は、はいっ、今行きます」
李加は急いでドアに走った。
……正直、助かった、と思った。
李加は無意識に両手で自分の腕をきつく抱きしめた。
――実李だ、
すぐに分かった。
……光輝の相手が『私』じゃないなら、実李以外、考えられない。
廊下の端に蹲った。
想像したくもないのに、重なった光輝と実李が勝手に動き出して――気が狂いそうだった。
……なんで今頃現れて、また私を苦しめるの?
反省してくれていたら――なんて、夢のまた夢だった。
空気が、薄い。
体に力が入らない。
呼吸が早くなる。
異常だ。
妹の恋人と、妹のふりをして関係を持つなんて……
なぜそんなひどいことができるのか……
どうしよう、
どうするべき?
涙が血のように流れた。
永遠に出られない闇の迷路に放り込まれたようだった。
……私は結局、実李から逃げられないの?
記憶と現実の狭間で、絶望の残像が点滅している。耳の奥では笑い声のようなけたたましい音が、割れるように響いて止まない。
……たすけて
「李加さん? 具合悪いの? 大丈夫?」
その声に顔を上げた。
精神科医の由紀子だった。