姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
むーちゃんママ(麗)
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……あれっ? あの女の人って、
麗は、食べるのが遅い中年のひとり客を観察して、あっ、と声に出した。
……あの人、よく見たらむーちゃんママじゃん、
麦とそっくりな愛らしい目元に確信を得た。
平日のランチタイムは周辺の店より遅い時間帯で設定しているため、『琴乃』は終日混んでいる。注文から提供するまでの時間も早いため回転率が高い。だから席が動かないと目立つのだ。
麦の母親は箸を動かしながら店の奥――要するに厨房の方を見てばかりいて、食事が進んでいない。
……うどん、のびてるって
麗は心の中で突っ込む。
……っていうか、今日はむーちゃんお休みなんだよなあ
麦の母が、麦に会いに来たことは一目瞭然だった。
麗は困った顔のまま、首筋に手を当てた。
……教えてあげた方がいいよね
麗は、麦の母の元へそっと近づいた。
会釈して小声を向ける。
「こんにちは。麦さんのお母さんですよね?」
なぜ知っているのか――という顔と共に立ち上がりかけた母親に、麗は両手を下に向けて「このままで大丈夫です」と合図を送った。
「実は今日、麦さんお休みで」
「えっ? そ、うなんです、ね」
声が小さくなって、肩が落ちた。
……家で話せてないんだもん、知るわけないよね
母親の落胆に、心の声で言う。
「……」
きっと勇気を出して来たのだろう。
睦美のことを伝えようとしたのか、それとも父親のことだろうか。
よし!
麗は心で頷いた。
「あのっ、私のこと覚えてませんか?」