姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
突然の質問に母親が顔を上げた。
「子供の頃、むーちゃんと遊んでいた“れい”です」
続けて告げた。
「この春東京に戻ってきて。実はこの店、“うち”です」
母親がみるみる目を丸くする。
「えっ、あの、れいちゃん?」
「そうです! “あの”れいちゃんです!」
麗はくだけて言った。
「もちろん覚えてるわ。ああ、本当ね、面影がある」
子供の頃の自分を懐かしがってくれる母親に、麗はくすぐったい気持ちになる。
「……じゃあ、麦とずっと友達でいてくれたの?」
泣き笑いのような優しい表情に、目の奥がつんとした。
――本当は、少し怖かった。
“麦の友達”として相応しくないと、思われていたんじゃないかって。
手紙が麦に渡っていなかった事実があったから。
だけど今、はっきりした。
「手紙――」
え? と麦の母が顔を上げたそこに、聞いた。
「むーちゃんに手紙書いたんです……知ってましたか?」
麗はたまらずにぶつけていた。
「そうよね、引っ越してからしばらく送ってくれたわよね」
「でも、むーちゃんには届いてませんでした」
「どういうこと?」
麦の母は、本当に分からないようだった。
……よかった、むーちゃんママに嫌われてたわけじゃないんだ
麗はほっとした。
と同時に、じゃあ誰が――。
答えはひとつのような、気がした。
「……あの、むーちゃんのことで話したいことがあるんです」
麗は他の客に聞こえないように声を落とした。
「……」
さすがに唐突だったか……と、その曇り始めた表情を見て思う。
子供の友達に、家庭の問題に踏み込まれるなんて、イヤだよなあ、とも。
だけど麗はさらに言葉を続けた。
麦のために一肌脱ごうと決めたのだ。
「たぶんむーちゃんも、むーちゃんママに知ってほしいと思ってることなんです」
「……」
麦の母親は、深刻な顔を向けてきた。
「わかったわ。――私も、れいちゃんに聞きたいことがあるの」
なにかを決意したような眼差しだった。
「準備してくるので十分ほど待っててください」
同じ商店街にあるカフェの名前を告げると、麦の母親はすぐにバッグを手に取った。