姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

「……」 
 碧は、この復讐で光里にどこまで協力させるか思案していた。
 絶対に失敗できないからこそ、慎重になった。
「そうだなあ、素直でまっすぐで、優しくて、可愛い。今も子供の頃と同じなんだ」
「子供の頃から? 碧君って一途なんだあ、すごーい」
「ただ、俺、長い間こっちに戻ってこれなかったから」
「そっか。そうだったね」
 光里は、うんうん、と頷く。
 睦美は友人たちに碧のことを自慢していて、碧の『情報』は筒抜けだった。
 
「じゃあ碧君がいない間にカノジョさんがむーちゃんにひどいことされたんだね。実際、どんなことされたのか聞いてもいい?」
 麦の名前を伏せて、麗から聞いたことをそのまま話した。
 光里は絶句し、本当に本当に、あのむーちゃんがやったこと? と聞き返してきた。
「睦美の二面性を知っているのは俺のカノジョだけなんだ。そのことが残念で悔しい」
「……わかるよ」
 
  
 碧が決めていることはひとつだった。
 睦美を本気にさせてから、その目の前で麦を選ぶこと。
 睦美の性根の悪さに言及して、その勘違いの自尊心をぶち壊してやること。
 だがその前に、麦に告白がしたい。
 
 ……そう思って様子を窺っていたが、

 ――話したいことがあるの。……全部終わったら、聞いてくれる?
 あの日電話で、麦に言われた。
 碧は焦った。
「……今は、言えない?」
 なんならこれから会って、今までのことを打ち明けて『一緒に復讐しよう!』と、子供の頃に自分が言ってもらったあの言葉を伝えてあげたかった。
 だが麦は、きっぱりと言った。
「後で話したい」

 ……。
 麦は、決めてしまったようだった。
 ……だったら俺は、むーちゃんのためになにをしてあげられる?

 そんなとき、麗が『合コン』という具体的な計画を持ってきた。
 場所選びも難航しているが、睦美を誘い出す口実がないと。 
 碧はふたつ返事で請け負った。

 幹事役と参加者への声掛けは須賀と光里に任せ、麦と麗とは別に会場探しに奔走した。
 そうして条件にぴったりのダイニングカフェをみつけ、麗に教えた。
 
 
 決行の前夜。
 個室と会場を押さえ、麗と再生テストを繰り返した。
 店のHDMIに繋いで投影を確認し、ラベリアの送受信機とカメラの音量も細かく調整した。動画は端末にダウンロード済みだ。個室側の音声は念のため、ボイスメモに同時録音する。麦のマイクは斜め掛けのバッグ内に固定すると聞いている。衣擦れとノイズについては策があるらしい。

 麦が断罪に使う個室は入り口から細長く伸びた廊下の奥。
 手前の部屋はわざとドアを開けて“誰もいない”ことを視覚化する。睦美は油断するはずだ。
 合コン用の会場は入り口から左側、メインフロアの奥。
 専用のレストルームもその一角にある。
 部屋はふたつ押さえた。ひとつには睦美の影響を強く受けた男女を。
 もうひとつには光里と光里の想い人、その友人たちを。友人たちは睦美とは関係なく、光里の恋を応援するために集まる。――これは、光里に“力を貸す”と約束した交換条件だ。

 碧は当日、合コンで進行役を務める。
 睦美を破滅へと導き、麦の名誉を回復させる完璧なナビゲーターとして。
 
 誰にも邪魔はさせない。 

 ……麦のためにできることならなんだってやる。
 そして必ず――麦に告白する。

 準備は整った。
 

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