君の手を掴むための遠回り
高校に入学してすぐの春。
満開の桜が風に舞う校舎の渡り廊下を、俺は当時の彼女と並んで歩いていた。
「ねえ神楽くん、部活どうする? 一緒の入る?」
「んー、どうしようかな。まだ決めてなくてさ」
周りの女子に囲まれながら、俺は中学の頃から身につけた''都合のいい笑顔''を貼り付けて調子を合わせていた。
手元には、彼女から強くねだられて着けたペアリング。
一人になる恐怖を紛らわせるためだけに作った彼女との、偽りの恋の証。
その時だった。
人混みの隙間、桜の風が吹き抜ける向こう側に立っていた女の子と、ふいに視線が交差した。
時間が、ピタリと止まった。
すっかり背が伸びて、見違えるほど綺麗な女の子になっていた。
けれど、その澄んだ大きな瞳も、小さく華奢な立ち姿も、俺の記憶の奥底にずっと焼き付いていたあの頃の面影そのものだった。
(……瑠華……っ!?)
全身の血の気が一気に引いていく。
ドクン、と心臓が破裂しそうなほど跳ね上がり、胸の奥が痛いほど締め付けられた。
瑠華の瞳が、激しく揺れていた。
俺の隣に立つ彼女と、俺の手元に光るペアリングを見つめ、信じられないものを見たような顔をして
────弾かれたように走り去っていく。
(追いかけなきゃ……っ!)
脳がそう叫んでいるのに、足が地面に張り付いたように動かない。