あの日、青い瞳の君に恋をした 前編:君と生きた日々
クーラーをつけていても、古い家だからなのか、暑い。
私は一休みしようと、部屋にあった椅子に腰を下ろした。
ふと、さっき見つけた白黒の写真のことを思い出し、もう一度手に取る。
なんの写真なんだろう。
瓦礫と、ほんの少し残っている建物……?
裏に何か文字が書いてある。
『昭和二十年 広島』
「昭和二十年……」
そうだ。
昭和二十年は、第二次世界大戦が終わった年だ。
なぜかこの時の私は、すぐに「終戦の年」ということがパッと頭に浮かんだ。
そして、この写真の場所は広島。
もう一度、写真に目を落とす。
「……もしかして、これ」
原爆が落とされたあとの広島?
胸の奥が、少しだけざわついた。
「でも、なんでこんな写真がおばあちゃんの家に……」
おばあちゃんが広島に住んでいたなんて、一度も聞いたことがない。
私は写真を窓から差し込む光にかざしてみた。
古い写真の端は色褪せていて、ところどころ傷がついている。
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
「…………」
手が止まる。
長く、街に響き渡る音。
「……あ」
そこで初めて、思い出した。
今日。
八月六日だ。
毎年、この時間に鳴る追悼のサイレン。
スマホの画面を見る。
午前八時十五分。
「…………」
広島に、原子爆弾が落とされた時間。
学校で習った。
ニュースでも、何度も聞いたことがある。
私は、手の中の写真を見る。
『昭和二十年 広島』
八月六日。
偶然が重なっただけ。
そのはずなのに。
「…………」
なぜか、写真を持つ手に力が入った。
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
サイレンは、まだ鳴っている。
「…………?」
おかしい。
音が、さっきより近い。
いや。
近いというより――
頭の中に直接響いてくるみたい。
「……何?」
耳を塞ぐ。
それでも、音は消えない。
キィィィィン――。
「っ……!」
突然、耳鳴りがした。
頭が、ズキンと痛む。
「いた……」
写真を持ったまま、立っていることもままならなくなり、思わず壁に手をつく。
その時。
視界の端で、何かが揺れた。
「…………え?」
窓の外。
向かいにある家が、一瞬だけ消えた。
「……?」
瞬きをする。
すると、景色は戻っていた。
見間違い?
そう思った次の瞬間。
また、消えた。
今度は、その向こうに。
古い木造の家が見えた。
「…………え?」
まるで二つの景色が、重なるように揺れている。
「何……これ……」
私は窓に近づいた。
道路を走っていた車が、消える。
代わりに、自転車を押して歩く人が現れる。
電柱が消える。
看板が消える。
「…………」
息ができない。
部屋の中まで、変わり始める。
エアコンの音が消えた。
照明が消える。
壁が、古びた木の壁へ変わっていく。
「お母さん……?」
返事がない。
「お母さん!」
スマホを掴む。
画面には、さっきまで蒼と話していたトーク画面。
『終わったら連絡して』
「…………蒼」
画面にはなぜか、圏外の表示。
「嘘……」
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
まだ、サイレンが鳴っている。
まるで、その音に合わせるように。
私の知っている世界が、消えていく。
「やだ……」
スマホを握りしめる。
「何これ……」
怖い。
「お母さん!」
階段へ向かおうとした瞬間、足元が大きく揺れた。
「っ!」
視界が歪む。
頭が痛い。
耳鳴りがする。
蝉の声が、異常なくらい大きく聞こえる。
「お母さ――」
声を発した瞬間。
視界が、真っ白になった。
そして。
サイレンの音が、途切れた。
――そして、何も聞こえなくなった。
私は一休みしようと、部屋にあった椅子に腰を下ろした。
ふと、さっき見つけた白黒の写真のことを思い出し、もう一度手に取る。
なんの写真なんだろう。
瓦礫と、ほんの少し残っている建物……?
裏に何か文字が書いてある。
『昭和二十年 広島』
「昭和二十年……」
そうだ。
昭和二十年は、第二次世界大戦が終わった年だ。
なぜかこの時の私は、すぐに「終戦の年」ということがパッと頭に浮かんだ。
そして、この写真の場所は広島。
もう一度、写真に目を落とす。
「……もしかして、これ」
原爆が落とされたあとの広島?
胸の奥が、少しだけざわついた。
「でも、なんでこんな写真がおばあちゃんの家に……」
おばあちゃんが広島に住んでいたなんて、一度も聞いたことがない。
私は写真を窓から差し込む光にかざしてみた。
古い写真の端は色褪せていて、ところどころ傷がついている。
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
「…………」
手が止まる。
長く、街に響き渡る音。
「……あ」
そこで初めて、思い出した。
今日。
八月六日だ。
毎年、この時間に鳴る追悼のサイレン。
スマホの画面を見る。
午前八時十五分。
「…………」
広島に、原子爆弾が落とされた時間。
学校で習った。
ニュースでも、何度も聞いたことがある。
私は、手の中の写真を見る。
『昭和二十年 広島』
八月六日。
偶然が重なっただけ。
そのはずなのに。
「…………」
なぜか、写真を持つ手に力が入った。
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
サイレンは、まだ鳴っている。
「…………?」
おかしい。
音が、さっきより近い。
いや。
近いというより――
頭の中に直接響いてくるみたい。
「……何?」
耳を塞ぐ。
それでも、音は消えない。
キィィィィン――。
「っ……!」
突然、耳鳴りがした。
頭が、ズキンと痛む。
「いた……」
写真を持ったまま、立っていることもままならなくなり、思わず壁に手をつく。
その時。
視界の端で、何かが揺れた。
「…………え?」
窓の外。
向かいにある家が、一瞬だけ消えた。
「……?」
瞬きをする。
すると、景色は戻っていた。
見間違い?
そう思った次の瞬間。
また、消えた。
今度は、その向こうに。
古い木造の家が見えた。
「…………え?」
まるで二つの景色が、重なるように揺れている。
「何……これ……」
私は窓に近づいた。
道路を走っていた車が、消える。
代わりに、自転車を押して歩く人が現れる。
電柱が消える。
看板が消える。
「…………」
息ができない。
部屋の中まで、変わり始める。
エアコンの音が消えた。
照明が消える。
壁が、古びた木の壁へ変わっていく。
「お母さん……?」
返事がない。
「お母さん!」
スマホを掴む。
画面には、さっきまで蒼と話していたトーク画面。
『終わったら連絡して』
「…………蒼」
画面にはなぜか、圏外の表示。
「嘘……」
――ウゥゥゥゥゥゥゥ――。
まだ、サイレンが鳴っている。
まるで、その音に合わせるように。
私の知っている世界が、消えていく。
「やだ……」
スマホを握りしめる。
「何これ……」
怖い。
「お母さん!」
階段へ向かおうとした瞬間、足元が大きく揺れた。
「っ!」
視界が歪む。
頭が痛い。
耳鳴りがする。
蝉の声が、異常なくらい大きく聞こえる。
「お母さ――」
声を発した瞬間。
視界が、真っ白になった。
そして。
サイレンの音が、途切れた。
――そして、何も聞こえなくなった。


