君と笑える最後の日
君がいない朝
目覚まし時計が鳴っている。
「……ん……」
私は布団の中でもぞもぞと動いて、枕を抱きしめた。
まだ眠い。
昨日、少し夜更かししたせいだ。
でも――。
「美桜ー! 遅刻するぞー!」
その声を待っていた私は、目を開けた。
……あれ?
もう一度、耳を澄ます。
静かだった。
いつもなら、すぐそこから聞こえてくるはずの声がしない。
「……晴?」
私はベッドから起き上がった。
窓を開ける。
いつもの道路。
いつもの電柱。
いつもの景色。
でも、そこに晴はいなかった。
「……まだ来てないのかな」
時計を見る。
七時四十分。
いつもなら、もう三回くらい呼ばれている時間だ。
私は急いで制服に着替えた。
鞄を掴んで、階段を駆け下りる。
「行ってきます!」
母に声をかけて、玄関を飛び出した。
「晴ー!」
家の前を見回す。
いない。
「……遅いな」
私はスマホを取り出した。
メッセージを開く。
昨日の一番最後。
『また明日』
たったそれだけ。
「……何してんの」
思わず笑う。
「寝坊?」
電話をかける。
――プルルル。
一回。
二回。
三回。
……出ない。
「もう……」
私は電話を切った。
「あとで絶対文句言ってやる」
そう呟いて、一人で学校へ向かった。
いつもなら隣を歩いているはずの道。
いつもなら、
「眠そう」
とか、
「昨日何時に寝た?」
とか。
くだらない話をしているはずなのに。
今日は、やけに静かだった。
*
教室に着いても、晴はいなかった。
「……まだ?」
自分の席に座る。
時計を見る。
始業時間が近づいていく。
それでも来ない。
なんとなく嫌な予感がした。
でも、私はすぐにそれを打ち消した。
「……大丈夫でしょ」
寝坊してるだけ。
きっとそう。
そう思っていた。
先生が教室に入ってくる。
「おはようございます」
いつもの朝。
いつものホームルーム。
なのに。
「朝倉は……」
先生が言葉を止めた。
教室の空気が、少しだけ変わった。
私は顔を上げる。
「……先生?」
先生は、教卓の前で一度だけ息を吐いた。
「朝倉は、今日は休みです」
「……休み?」
思わず声が出た。
「はい。詳しいことは――」
そこから先の言葉が、頭に入ってこなかった。
休み。
ただ、それだけ。
なら明日は来る。
明日になれば、いつも通りになる。
そう思った。
*
昼休み。
私は一人で購買へ向かった。
「……新作パン」
昨日、晴が言っていた言葉を思い出す。
『今日は新作』
「……買っとくか」
自分でも、何をしているのか分からなかった。
購買でパンを二つ買う。
いつも通り。
ひとつは私。
もうひとつは晴。
――でも。
教室へ戻っても、晴はいない。
「……」
机の上に、パンを置く。
「晴、早く来ないかな」
誰も返事をしない。
周りでは、みんなが楽しそうに話している。
笑い声。
机を動かす音。
窓の外から聞こえる運動部の声。
全部、いつも通り。
なのに。
私の隣だけが、空っぽだった。
「……なんで」
胸の奥が、妙にざわつく。
スマホを見る。
通知はない。
電話も。
メッセージも。
何もない。
「……昨日は普通だったじゃん」
昨日。
一緒に笑った。
約束もした。
写真も撮った。
「明日も、こうやって笑えたらいいな」
そう言っていたのに。
「……晴」
私は小さく名前を呼んだ。
その瞬間。
教室の後ろの扉が開いた。
「桜井さん……」
クラスメイトの女の子が、泣きそうな顔で立っていた。
「……美桜ちゃん」
「どうしたの?」
「……朝倉くんのこと……」
その声が震えていた。
私は眉を寄せた。
「……何?」
女の子は、すぐには言えなかった。
視線を落として、唇を噛んで。
それから、震える声で言った。
「……朝倉くん、もう……」
その瞬間。
時間が止まったような気がした。
「……え?」
うまく聞き取れなかった。
「もう、学校に……」
「……何?」
「……来られないって」
「だから、休みなんでしょ?」
「違うの……」
女の子の目から、涙が落ちる。
「……もう、来られないの」
「……え」
意味が分からなかった。
来られない?
どうして?
だって昨日まで普通だった。
昨日、一緒に笑っていた。
帰り道に、
『また明日』
って言った。
「……嘘」
私は立ち上がった。
「嘘でしょ?」
誰も答えない。
「だって……昨日……」
声が震える。
「昨日まで普通だったじゃん……!」
喉の奥が痛い。
何が起きているの。
なんでみんな泣いてるの。
なんで。
なんで――。
私はスマホを握りしめた。
昨日のメッセージを開く。
『また明日』
その四文字が、何度見ても消えない。
「……晴」
指先が震える。
「……待ってよ」
昨日みたいに笑って。
いつもみたいに、
「何泣いてんの?」
って言ってよ。
「……晴……」
その名前を呼んでも。
もう、返事はなかった。
その日の放課後。
私は一人で帰った。
いつも二人で歩く道を。
いつもの分かれ道まで。
そして、立ち止まる。
昨日まで、
「じゃあな」
「また明日」
それだけで終わっていた場所。
今日は、誰もいない。
夕焼けだけが、静かに広がっていた。
「……また明日って言ったのに」
私は空を見上げる。
「……約束したじゃん」
涙が、一粒落ちた。
それをきっかけに、
止まらなくなった。
――私の大切な幼なじみ、朝倉晴は。
もう、ここにはいなかった。
「……ん……」
私は布団の中でもぞもぞと動いて、枕を抱きしめた。
まだ眠い。
昨日、少し夜更かししたせいだ。
でも――。
「美桜ー! 遅刻するぞー!」
その声を待っていた私は、目を開けた。
……あれ?
もう一度、耳を澄ます。
静かだった。
いつもなら、すぐそこから聞こえてくるはずの声がしない。
「……晴?」
私はベッドから起き上がった。
窓を開ける。
いつもの道路。
いつもの電柱。
いつもの景色。
でも、そこに晴はいなかった。
「……まだ来てないのかな」
時計を見る。
七時四十分。
いつもなら、もう三回くらい呼ばれている時間だ。
私は急いで制服に着替えた。
鞄を掴んで、階段を駆け下りる。
「行ってきます!」
母に声をかけて、玄関を飛び出した。
「晴ー!」
家の前を見回す。
いない。
「……遅いな」
私はスマホを取り出した。
メッセージを開く。
昨日の一番最後。
『また明日』
たったそれだけ。
「……何してんの」
思わず笑う。
「寝坊?」
電話をかける。
――プルルル。
一回。
二回。
三回。
……出ない。
「もう……」
私は電話を切った。
「あとで絶対文句言ってやる」
そう呟いて、一人で学校へ向かった。
いつもなら隣を歩いているはずの道。
いつもなら、
「眠そう」
とか、
「昨日何時に寝た?」
とか。
くだらない話をしているはずなのに。
今日は、やけに静かだった。
*
教室に着いても、晴はいなかった。
「……まだ?」
自分の席に座る。
時計を見る。
始業時間が近づいていく。
それでも来ない。
なんとなく嫌な予感がした。
でも、私はすぐにそれを打ち消した。
「……大丈夫でしょ」
寝坊してるだけ。
きっとそう。
そう思っていた。
先生が教室に入ってくる。
「おはようございます」
いつもの朝。
いつものホームルーム。
なのに。
「朝倉は……」
先生が言葉を止めた。
教室の空気が、少しだけ変わった。
私は顔を上げる。
「……先生?」
先生は、教卓の前で一度だけ息を吐いた。
「朝倉は、今日は休みです」
「……休み?」
思わず声が出た。
「はい。詳しいことは――」
そこから先の言葉が、頭に入ってこなかった。
休み。
ただ、それだけ。
なら明日は来る。
明日になれば、いつも通りになる。
そう思った。
*
昼休み。
私は一人で購買へ向かった。
「……新作パン」
昨日、晴が言っていた言葉を思い出す。
『今日は新作』
「……買っとくか」
自分でも、何をしているのか分からなかった。
購買でパンを二つ買う。
いつも通り。
ひとつは私。
もうひとつは晴。
――でも。
教室へ戻っても、晴はいない。
「……」
机の上に、パンを置く。
「晴、早く来ないかな」
誰も返事をしない。
周りでは、みんなが楽しそうに話している。
笑い声。
机を動かす音。
窓の外から聞こえる運動部の声。
全部、いつも通り。
なのに。
私の隣だけが、空っぽだった。
「……なんで」
胸の奥が、妙にざわつく。
スマホを見る。
通知はない。
電話も。
メッセージも。
何もない。
「……昨日は普通だったじゃん」
昨日。
一緒に笑った。
約束もした。
写真も撮った。
「明日も、こうやって笑えたらいいな」
そう言っていたのに。
「……晴」
私は小さく名前を呼んだ。
その瞬間。
教室の後ろの扉が開いた。
「桜井さん……」
クラスメイトの女の子が、泣きそうな顔で立っていた。
「……美桜ちゃん」
「どうしたの?」
「……朝倉くんのこと……」
その声が震えていた。
私は眉を寄せた。
「……何?」
女の子は、すぐには言えなかった。
視線を落として、唇を噛んで。
それから、震える声で言った。
「……朝倉くん、もう……」
その瞬間。
時間が止まったような気がした。
「……え?」
うまく聞き取れなかった。
「もう、学校に……」
「……何?」
「……来られないって」
「だから、休みなんでしょ?」
「違うの……」
女の子の目から、涙が落ちる。
「……もう、来られないの」
「……え」
意味が分からなかった。
来られない?
どうして?
だって昨日まで普通だった。
昨日、一緒に笑っていた。
帰り道に、
『また明日』
って言った。
「……嘘」
私は立ち上がった。
「嘘でしょ?」
誰も答えない。
「だって……昨日……」
声が震える。
「昨日まで普通だったじゃん……!」
喉の奥が痛い。
何が起きているの。
なんでみんな泣いてるの。
なんで。
なんで――。
私はスマホを握りしめた。
昨日のメッセージを開く。
『また明日』
その四文字が、何度見ても消えない。
「……晴」
指先が震える。
「……待ってよ」
昨日みたいに笑って。
いつもみたいに、
「何泣いてんの?」
って言ってよ。
「……晴……」
その名前を呼んでも。
もう、返事はなかった。
その日の放課後。
私は一人で帰った。
いつも二人で歩く道を。
いつもの分かれ道まで。
そして、立ち止まる。
昨日まで、
「じゃあな」
「また明日」
それだけで終わっていた場所。
今日は、誰もいない。
夕焼けだけが、静かに広がっていた。
「……また明日って言ったのに」
私は空を見上げる。
「……約束したじゃん」
涙が、一粒落ちた。
それをきっかけに、
止まらなくなった。
――私の大切な幼なじみ、朝倉晴は。
もう、ここにはいなかった。
