恋と焦燥のロードマップ
【水際のアプローチ】
土曜日の午後六時。品川駅の港南口は、休日の開放感に包まれた人々で賑わっていた。ガラス張りの巨大な駅舎から差し込む夕暮れの光の中、私は昨日新調したばかりの、少し大人っぽいミントグリーンのシフォンブラウスの裾を何度も整えていた。
「杏奈先輩」
背後から届いた低い声に肩が跳ねる。振り返ると、そこに神谷くんが立っていた。会社でのネイビーのスーツ姿とは違い、黒のタイトなスラックスに、上質なチャコールのサマーニットをさらりと着こなしている。少し長めの前髪が目元に影を落としていて、いつもの「職場の後輩」というフィルターが外れた瞬間、彼の持つ圧倒的なスタイルの良さと端正な顔立ちが、物理的な圧力となって私を気後れさせた。
「あ、神谷くん。お疲れ様。……なんか、私服だと雰囲気変わるね」
「先輩も、とても綺麗です。……行きましょう」
彼は私の拙い褒め言葉をさらりと受け流すと、当然のように車道側を歩き、私の歩調に合わせて歩き出した。その迷いのないエスコートに、私の心臓は駅を出た瞬間からすでに記屈な拍動を始めていた。
連れて行かれたのは、駅から少し歩いた高層ビルの最上階にある、オープンキッチンのクラフトビア・ダイナーだった。天井が驚くほど高く、大きなガラス窓からは都心のきらめく夜景が一望できる。ビストロのような気取った狭さはなく、コンテンポラリーで洗練されていながらも、大人が肩の力を抜いて羽を伸ばせる開放的な空間だった。中央のキッチンからは、炭火で焼かれたお肉の香ばしい匂いが漂っている。
「ここ、気になってたんだよね。予約取るの大変だったんじゃない?」
「いえ。先輩と来たいと思っていたので、問題ありません」
「杏奈先輩」
背後から届いた低い声に肩が跳ねる。振り返ると、そこに神谷くんが立っていた。会社でのネイビーのスーツ姿とは違い、黒のタイトなスラックスに、上質なチャコールのサマーニットをさらりと着こなしている。少し長めの前髪が目元に影を落としていて、いつもの「職場の後輩」というフィルターが外れた瞬間、彼の持つ圧倒的なスタイルの良さと端正な顔立ちが、物理的な圧力となって私を気後れさせた。
「あ、神谷くん。お疲れ様。……なんか、私服だと雰囲気変わるね」
「先輩も、とても綺麗です。……行きましょう」
彼は私の拙い褒め言葉をさらりと受け流すと、当然のように車道側を歩き、私の歩調に合わせて歩き出した。その迷いのないエスコートに、私の心臓は駅を出た瞬間からすでに記屈な拍動を始めていた。
連れて行かれたのは、駅から少し歩いた高層ビルの最上階にある、オープンキッチンのクラフトビア・ダイナーだった。天井が驚くほど高く、大きなガラス窓からは都心のきらめく夜景が一望できる。ビストロのような気取った狭さはなく、コンテンポラリーで洗練されていながらも、大人が肩の力を抜いて羽を伸ばせる開放的な空間だった。中央のキッチンからは、炭火で焼かれたお肉の香ばしい匂いが漂っている。
「ここ、気になってたんだよね。予約取るの大変だったんじゃない?」
「いえ。先輩と来たいと思っていたので、問題ありません」