恋と焦燥のロードマップ
『湊:今週、どこか空いてる?』
私は少しだけ考えてから、土曜日なら大丈夫だと返した。すると、すぐに返信が来た。
『湊:じゃあ、また会いたい』
たった一言だった。それなのに、その日は眠る前まで何度もその画面を開いてしまった。
翌週の土曜日、私たちは駅から少し離れた商店街を歩いた。特に目的地を決めていたわけでもなく、気になる店を見つけたら入ってみようというだけの約束だった。小さな雑貨屋を除いてみたり、昔ながらの喫茶店でコーヒーを飲んだり、途中で見つけたたい焼きを半分ずつ食べたりした。
「なんか、こういうのいいですね」
私が言うと、湊はたい焼きを持ったまま笑った。
「こういうのって?」
「目的決めないで歩くの」
「ああ」
湊は少し考えるように前を見た。
「俺も好きです。仕事だと、時間も場所も全部決まってることが多いから」
「忙しいんですね」
「まぁ、そこそこ」
その返事が曖昧だった。でも、私はそれ以上聞かなかった。
湊は、時々そういう答え方をする。仕事のことを聞いても、詳しいことはあまり話さない。忙しいと言いながらも、それ以上は何も言わないし、どんな仕事をしているのかも、まだ私は詳しくは知らなかった。
最初の頃なら、もう少し気になっていたかもしれない。けど、今はそれほど気にならなかった。
知らないことがあってもいいと思えるようになっていたからだ。
その日の帰り道、駅へ向かって歩いていると、湊が突然立ち止まった。
「雫さん」
「はい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」
「俺と会ってて、楽しいですか?」
また、その質問だった。一度目に会った時にも聞かれた。
どうしてそんなこと確認するのか、少しだけ不思議だった。
「……楽しいですよ」
「本当に?」
「本当です」
「なら、よかった」
湊は安心したように笑った。その顔を見て、私は少しだけ胸がざわついた。もしかしたら、この人も同じなのかもしれない。私と会うことに、少しだけ不安を感じている。そう思ったら、今までよりも湊と近く感じられた。
「湊さんは?」
「俺?」
「私と会ってて、楽しいですか?」
一瞬だけ、湊は黙った。それから少し照れたように笑う。
「楽しいですよ」
「……なら、よかったです」
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