恋と焦燥のロードマップ
【知らなかった時間】
雫と初めて会った日の帰り道、俺は駅のホームで一人になってから、ようやく小さく息を吐いた。別に何か失敗したわけじゃない。むしろ、思っていた以上に自然に話せたし、雫も楽しそうにしてくれていた。別れる直前に「また、会えますか」と聞いたときも、少し驚いたあとで「また会いたいです」と返してくれた。その言葉を思い出すたび、胸の奥に残っていた緊張がゆっくりほどけていくようだった。
ただ、俺には雫には見せていない部分がある。駅へ向かう途中、何度か周囲を確認していたのも、帽子を深くかぶっていたのも、単純に人見知りだからというわけではない。普段、俺は俳優として活動している。仕事のときに名乗っているのは、本名の「湊」ではなく、芸名の朝倉蓮だ。ドラマや映画の出演が増えて、名前を覚えてくれる人も増えた。街を歩いていて声をかけられることも珍しくなくなったし、撮影現場の外でも、自分が思っている以上に人から見られていることを意識するようになった。
だから、雫と会うときはいつも以上に気をつけていた。駅ではなるべく人の少ない出口を選ぶし、店を決めるときも混雑する時間帯は避ける。人通りの多い場所を長く歩くこともできるだけしない。帽子を深くかぶって、眼鏡をかける。それだけで完全に気づかれなくなるわけではないけれど、何もしないよりはずっといい。以前、仕事とは関係なく立ち寄った店で撮られた写真がSNSに上がり、そこから居場所を特定されたこともあった。大きな騒ぎになったわけではない。それでも、一度広がったものを自分の意思だけで消すことができない怖さは知っている。
もし誰かに見つかったら。もし写真を撮られたら。もし、それが俺一人の問題ではなくなったら。
そんなことを考えるたび、雫の顔が浮かんだ。
彼女は何も知らない。俺が俳優をしていることも、朝倉蓮という名前で仕事をしていることも、どんなふうに人から見られているのかも知らない。ただ、Linkで話している一人の男として俺を見ている。それが、俺には心地よかった。
ただ、俺には雫には見せていない部分がある。駅へ向かう途中、何度か周囲を確認していたのも、帽子を深くかぶっていたのも、単純に人見知りだからというわけではない。普段、俺は俳優として活動している。仕事のときに名乗っているのは、本名の「湊」ではなく、芸名の朝倉蓮だ。ドラマや映画の出演が増えて、名前を覚えてくれる人も増えた。街を歩いていて声をかけられることも珍しくなくなったし、撮影現場の外でも、自分が思っている以上に人から見られていることを意識するようになった。
だから、雫と会うときはいつも以上に気をつけていた。駅ではなるべく人の少ない出口を選ぶし、店を決めるときも混雑する時間帯は避ける。人通りの多い場所を長く歩くこともできるだけしない。帽子を深くかぶって、眼鏡をかける。それだけで完全に気づかれなくなるわけではないけれど、何もしないよりはずっといい。以前、仕事とは関係なく立ち寄った店で撮られた写真がSNSに上がり、そこから居場所を特定されたこともあった。大きな騒ぎになったわけではない。それでも、一度広がったものを自分の意思だけで消すことができない怖さは知っている。
もし誰かに見つかったら。もし写真を撮られたら。もし、それが俺一人の問題ではなくなったら。
そんなことを考えるたび、雫の顔が浮かんだ。
彼女は何も知らない。俺が俳優をしていることも、朝倉蓮という名前で仕事をしていることも、どんなふうに人から見られているのかも知らない。ただ、Linkで話している一人の男として俺を見ている。それが、俺には心地よかった。