恋と焦燥のロードマップ
『久しぶり、拓也です。覚えてる?』だろうか。それともアプリの定型分みたいに『マッチングありがとうございます!よろしくお願いします!』と、まずは普通の会員として無難に始めるべきか。いや、せっかく再会できたのに、そんなよそよそしいメッセージを送る方がおかしな話だ。後から気づいた時、余計に気まずい思いをするだけじゃないか。そもそも、向こうは俺の写真を見て、あの頃の拓也だと気づいて「いいね」を返してくれたのだろうか。
二十九歳にもなって、高校生の初デート前夜のような情けない葛藤に溺れていると、画面の下部からひょっこりと新しい吹き出しが飛び出してきた。
『みづき:うわ、やっぱり拓也じゃん!笑 久しぶり!』
拍子抜けするほどに、あの頃と同じ、飾らない美月の文体だった。
文字の後ろについた『笑』の文字を見た瞬間、胸の奥を堰き止めていた重い澱のような緊張感が、一気に推し流れていくのが分かった。俺は急いでキーボードを叩く。
『拓也:美月だよな?びっくりした。最初は、同姓同名の別人かと思ってたけど、やっぱり美月だよな』
送信ボタンを押すと、一分もしないうちに画面の端に『既読』がついた。そして、美月のアイコンの横で、文字を入力中であることを示す三点リーダーがちかちかと点滅を始める。その数十秒のラグが、かえって画面の向こうに確かに美月がいるというリアリティを運んできた。
『みづき:あはは、別人だったらどうするつもりだったの? 私も写真見て心臓止まるかと思った。拓也、ちょっと大人っぽくなったね。でもプロフィール写真の笑い方の癖がそのままだからすぐ分かったよ』
『拓也:そっちこそ。白いワンピースなんか着ちゃって、すっかりお姉さんじゃん』
数分おきに届くメッセージのラリー。仕事で使うメールや、アプリで出会った他の女性との、あの言葉を慎重に選ぶような、薄氷を踏むようなやり取りとは訳が違った。文字だけのやり取りのはずなのに、校舎の最上階、埃っぽい映画批評部の部室で駄話の空気が、ワンルームの冷たい部屋を満たしていくようだった。
『みづき:拓也もアプリやってるんだね。なんか、ちょっと意外かも』
『拓也:まあな。周りがどんどん結婚していくから、そろそろまずいかなと思ってさ』
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