恋と焦燥のロードマップ
それだけ言って別れたけど、家に帰る途中も、頭の片隅にはさっきの言葉が残っていた。
『もっと家族と話しておけばよかった』という言葉。
俺自身が親父の話をしたから、雫も自分の家族のことを話してくれただけかもしれない。そう思えば、それほど気にすることでもないはずだった。それでも、家に帰ってからも、なぜか引っ掛かりが消えなかった。
部屋で一人になり、パソコンを開いてからも、しばらく別のことをしていた。けど、気づけば検索画面を開いて、雫の地元の名前を入力していた。その後に、十年前の西暦を入力する。
自分でも、何を探しているのかははっきりしていなかった。ただ、あの言葉の意味を少しでも知りたかった。
いくつか記事を開いて、日付を遡っていく。雫の地元はそれほど大きな街でもないらしく、出てきたのは地井行きの祭りや、学校の行事、店の開店を知らせるような、平穏なニュースがほとんどだった。十年前まで遡っても、雫の話に繋がりそうなものはなかなか見つからなかった。
もうやめようと思った時、一つの記事が目に入った。
十年ほど前、雫の地元で起きた交通事故。
高齢女性の運転する車がハンドルの誤操作と、アクセルとブレーキの踏み間違いにより、住宅に突っ込み、そこにいたある家族が巻き込まれた事故という記事だった。
何気なく開いたはずなのに、読み進めるうちに、指が止まった。
家族の中で、当時まだ幼かった少女だった一人だけが別室にいたため、無事だった。
その一文を読んだ瞬間、画面の文字が急に近くなったように感じた。
場所も、時期も、年齢も、雫から聞いた話と重っていた。
今日の食事中の雫の声が、頭の中に戻ってきた。
『…仲は、良かった……のかな』
『でも、もう十年くらい前のことだから』
そして、
『……もっと、家族と話しておけば良かったかな……』
あの言葉が、今となっては別の意味を持って聞こえた。
たぶん、雫は家族を失った。
そう思ったけど、記事をこれ以上読み進めることはしなかった。
名前が載っていたわけじゃない。俺が勝手に雫と思い込んでいるだけかもしれないし、もし本当にそうだったとしても、雫が自分から話してないことを、俺が勝手に知ったつもりになるのは違うと思った。
そっとパソコンを閉じる。
暗くなった画面に、自分の顔がぼんやり映っていた。
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