恋と焦燥のロードマップ

【帰る場所】

雫と俺の実家に行く約束をしてから、何日か経過した。
仕事の予定を確認しながら帰る日を決め、念のため母さんに電話しておいた。そうして迎えた休日の朝、俺たちは駅のホームに並んでいた。
実家までは、新幹線と在来線を乗り継いで数時間かかる。普段なら移動では車かタクシーで済ませることが多いけど、今日hあ久しぶりに自分の足で帰るような気がして、あえて電車で向かうことにした。
隣に立つ雫は、いつもより少しだけ静かだった。
「眠い?」
そう聞くと、雫は首を横に振った。
「ううん。なんか……ちょっと緊張してる」
「緊張?」
そう聞くと、雫は少しだけ考えるようにしてから頷いた。
「うん。湊のご家族に会うの、初めてだから」
「……そっか」
そう言ってから、俺は少しだけ笑った。
「俺も、久しぶりに会うから緊張してる」
「湊も?」
「うん。だから、たぶん大丈夫」
雫は一瞬だけ俺の顔を見つめて、それから小さく笑った。
電車がホームに入ってきて、俺たちは車内へ乗り込む。指定席に座ると、やがてゆっくりと電車が動き始めた。
窓の外を流れていく景色を眺めながら、俺は何年も帰ってこなかった場所へ向かっていることを、改めて実感していた。
出発する前は、もっと落ち着かないものだと思っていた。けれど、こうして電車に揺られながら見慣れない景色をぼんやり眺めていると、まだ実家までは時間があるせいなのか、それとも隣に雫がいるからなのか、自分でも思っていたほど気持ちは張り詰めていなかった。
何年も離れていた場所なのに、実家までの道や旅館の玄関、廊下の先にある親父の部屋まで、目を閉じれば浮かんでくる。忘れていたと思っていた景色も、こうして帰ることが決まってみると、記憶の奥から少しずつ引っ張り出されるように蘇ってきた。
「……湊」
隣から名前を呼ばれて、俺は雫の方へ顔を向けた。
「ん?」
「湊の実家って、どんな感じなの?」
「そんな感じって言われると……普通の家とはちょっと違うかもな」
そう答えながら、子どもの頃のことを思い返す。学校から帰れば、玄関には旅館の客用の靴が並んでいて、廊下を歩けば知らない人とすれ違うこともあった。家族が暮らしている場所でありながら、同時にたくさんの人が訪れる場所でもあって、俺にとってはそれが当たり前だった。
「俺が子供の頃は、家に帰ってきたっていうより、仕事場に戻ってきた感覚の方が近かったかも」
「そっか。じゃあ、家に帰っても家に帰った気がしなかったんだね」
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