恋と焦燥のロードマップ
「うん。厨房から食器の音が聞こえたり、廊下では誰かが歩いてたりして……静かな家って感じじゃなかったな」
話しているうちに、昔の光景が次々と思い浮かんできた。
忙しい日は家族で食卓を囲む時間も遅くなったし、親父が仕事を抜けられない日は、母さんと二人で先に食べることもあった。それでも、時間が合えば家族で同じテーブルを囲んでいて、当時はそれを特別なことだなんて考えたこともなかった。
「……家族で、ご飯食べたりもしてた?」
雫がそう聞いた。
「うん。毎日じゃないけど、時間が合えば一緒に食べてたかな」
そう答えてから、俺は少しだけ窓の外へ視線を戻した。
今になって思えば、ああいう時間は思っているよりずっと大切だったのかもしれない。
あのとき、雫が言った「もっと家族と話しておけばよかったかな……」という言葉が、ふいに頭の中に浮かんだ。
あの時は、その言葉の意味を深く考えないようにしていた。でも、今こうして自分の家族の話をしていると、雫があの言葉を口にしたときの表情まで、妙にはっきり思い出せる。
「……私もね」
しばらく黙っていた雫が、窓の外を見たまま口を開いた。
「昔は、家族と一緒にご飯、食べてたなって思って」
俺は雫の横顔を見ながら、急かすことも、余計なことを聞くこともせず、ただ次の言葉を待った。
「……この前、テレビ持ってないって話したでしょ?」
「うん」
「実はね……持たなくなった理由があるんだよね」
その瞬間、俺の中に、以前パソコンで見つけた記事のことが浮かんだ。もしかしたら、雫がこれから話そうとしていることは、あの記事に書かれていたことなのかもしれない。そう思うと、さっきまで何気なく聞いていたはずの言葉が、急に重たく感じられた。
「十年くらい前に、家族が事故にあったんだよね」
その言葉を聞いて、俺の中で何かがゆっくりと繋がり始めたような気がした。以前パソコンで見つけた記事に書かれていたことが、今、雫の口から聞いている話と重なっていく。けれど、まだ自分の中で確かめようとはせず、俺はただ雫の言葉を待った。
「お父さんとお母さんと……あと、一人、お兄ちゃんがいたの」
雫はそこまで話すと、少しの間、窓の外へ視線を向けたまま黙っていた。
「その日は、みんなで家でご飯食べてたんだけど…私は自分の部屋にいて」
「…うん」
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