エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。
昼間とはまるで違う。
白い月明かりに照らされた花壇。
やわらかく揺れる噴水の音。
遠くからかすかに聞こえるパーティーの音楽。

まるで夢の中みたいだった。

「すごい……」

思わず足を止めると、鳳城くんが私を見る。

「気に入った?」

「うん……すごく綺麗」

「ならよかった」

そのひと言がやさしくて、胸があたたかくなる。

テラスから少し離れた、庭園の奥。
人気のないベンチの前で、鳳城くんはようやく足を止めた。

「座る?」

「う、うん」

並んで座ると、距離が近い。
肩が触れそうで触れない、それだけの近さなのに心臓がうるさい。

しばらく、どちらも何も言わなかった。
噴水の音だけが静かに響く。

先に口を開いたのは、鳳城くんだった。

「今日はほんとに反則」

「ま、またそれ……」

「だって事実」

私は熱くなる頬を隠したくて、思わず視線を落とした。

「そんなに変かな」

「変じゃない。かわいい」

即答されて、息が止まりそうになる。

「それ以上言わないで……」

「なんで」

「恥ずかしいから……」

小さく答えると、隣で鳳城くんがふっと笑った。
その笑い方までやわらかくて、余計にだめだ。

「ほのか」

名前を呼ばれて、そっと顔を上げる。

金色の瞳が、夜の光の中でもまっすぐ私を見ていた。

「最近、おまえ見てると変になる」

胸がどくんと跳ねる。

「変って……」

「近づきたくなるし、触りたくなるし、他のやつに見せたくない」

その言葉が甘すぎて、苦しくて、泣きそうになる。

でも。
それでも肝心な一言は、まだない。

好き。
その言葉だけが、ない。

だからこそ期待してしまう自分がこわかった。

「鳳城くん……」

何か言おうとした、そのときだった。

「お邪魔でしたかしら」

やわらかな声が、夜の空気を切り裂く。

私ははっとして立ち上がる。
そこにいたのは、九重麗華だった。

薄い青のドレスをまとった姿は、月の光の下でもひどく綺麗で、まるで最初からこの庭園の一部だったみたいに見える。
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