放課後ロック・クラッカー!〜校内の開かずの扉、すべて開けてみせます〜
――ガチコーンッ!!
地下空間全体を揺るがすような、重厚で美しい金属の破砕音が響き渡った。
頭上から迫っていた巨大な鋼鉄ギアが、私たちの頭髪をかすめるわずか数センチ上で『ギギーッ!』と悲鳴を上げてピタリと停止する。
それと同時に、壁を遮断していた四本の巨大アームが力無くスルスルと壁の中へ引っ込んでいった。
青い端末のスクロールが止まり、画面に大きな文字が浮かび上がる。
『UNLOCK COMPLETE――第一防衛ライン、解除』
「……あ……開い……た……」
指先からスッと力が抜け、血の滲んだ即席ピックがパラリと床に転がった。
極度の緊張と全神経の酷使で膝がガクガクと震え、私はその場にへたり込みそうになった。
けれど、倒れ込む前に私を強く抱きとめてくれた腕があった。
「鈴宮……! 大丈夫か!?」
神臣先輩の声だ。
いつも氷のように冷ややかで隙のない先輩が、今は荒い息を吐きながら、私の体を力いっぱい抱きしめている。先輩の胸から、バクバクと早鐘のように打つ心臓の鼓動がダイレクトに伝わってきた。
『あ……神臣先輩も、本当はすごく怖かったんだ……』
私の命を、この部屋の危険を、本気で心配してくれていた。
そのぬくもりが嬉しくて、私は少しだけ力を抜いて先輩の胸元に額を預けた。
「……はい。なんとか……ルシファーちゃんたちの応援のおかげで、開けられました……」
「バカ者、ルシファーではなくお前の指先のおかげだ。……本当によくやった」
神臣先輩の低く優しい声が、頭の上から降ってくる。
その瞬間、ハッと我に返った。
『う、うわわわわっ!? 私、神臣先輩に抱きしめられてる!? 顔面国宝の胸の中にスッポリ収まってるー!?』
一瞬で頭に血が上り、顔が爆発しそうになった。
「ひゃああっ! あ、あの、神臣先輩! もう安全ですから! 離してくださいっ!」
「……あ、ああ。すまん」
神臣先輩も自分が無我夢中で私を抱きしめていたことに気づいたのか、少し耳の先端を赤くして、そっと私を解放してくれた。
『こちらS.O.S本部! ふたりとも無事!? 返事して!』
インカムからカイ先輩の叫び声が飛び込んでくる。
「ああ、カイ。僕も鈴宮も無事だ。第一の扉のロックは……完全に解除された」
『マジでー!? あの悪魔みたいなハイブリッド・ロックを解錠しちゃったの!? 鈴宮ちゃんすごすぎるよー! 伝説だよ伝説!』
カイ先輩の興奮した声を聞きながら、私は立ち上がり、ゆっくりと目の前の扉を見上げた。
ギギギ……と音を立てて、漆黒の巨大な扉が両開きに開いていく。
その奥に広がっていたのは――ほこりっぽいけれど、不思議な温かい光に包まれた部屋だった。
壁一面に並ぶ、見たこともない古書や羊皮紙の棚。
部屋の中央には重厚なオーク材のデスクが置かれ、その上には精巧な天球儀と、何やら怪しげな真鍮製のガジェットが整然と飾られていた。
「ここは……創立者の『秘密の書庫』……?」
神臣先輩が静かに足を踏み入れ、デスクの上の書類に目を通す。
「間違いない。百年前、学園を創設した『神臣 鏡三郎』――僕の曾祖父の執務室だ」
「えっ!? 神臣先輩のご先祖様!?」
「ああ。曾祖父は稀代の発明家であり、カラクリ技師でもあったらしい。だが、ある日突然、学園の地下にいくつもの秘密を残して表舞台から姿を消した……」
神臣先輩がデスクの引き出しを開けると、そこには二つのものが置かれていた。
一つは、古びた革表紙のノート。
そしてもう一つは――青く澄んだ光を放つ、幾何学的な模様が刻まれた『水晶のキューブ』だった。
「これは……?」
神臣先輩がノートを開くと、そこには流麗な文字でこう記されていた。
『七つの扉を破りし者たちへ。
学園の地下深くに封印されし「創立の秘宝」を悪しき者の手から守れ。
この水晶のキューブは、次なる扉を開くための第一の鍵なり。
だが気をつけよ。汝らが扉を開きし時、「彼ら」もまた動き出す……』
「彼ら……?」
私が首を傾げたその時だった。
「痛っ……」
無意識に手を伸ばそうとした瞬間、指先に走った激痛に思わず声を漏らしてしまった。
即席ピックを作ったときに擦りむいた右手の指先から、ポタリと血が滲み出していたのだ。アドレナリンが切れて、急に痛みが襲ってきたらしい。
「鈴宮! 手を見せろ」
神臣先輩が素早く私の腕を掴んだ。
「あ、大したことありません! ちょっと皮が剥けただけで――」
「バカ言え。鍵開け師(クラッカー)にとって、指先は命だろうが」
神臣先輩は眉をひそめると、制服のポケットから清潔なハンカチと小さな救急絆創膏を取り出した。
そして、私の前に片膝をつくと、私の右手を優しく包み込んだ。
「あ……」
先輩の長くて綺麗な指先が、私の傷口をなぞるように優しく触れる。
血を丁寧にハンカチで拭き取り、手際よく絆創膏を巻いてくれた。その動作があまりにも丁寧で、大切に扱われている感じがして、胸の奥がキュンと甘く痛んだ。
「これでよし。……無理をしすぎるな。お前の指先が壊れたら、誰が僕のバディを務めるんだ」
「神臣先輩……」
「それに……お前に怪我をさせたら、僕が嫌なんだ」
ぽつりと溢された先輩の本音。
伏せられた綺麗なまつ毛と、少しだけ照れたように歪められた唇。
『う、うわあああっ!! ダメだって! そんな顔でそんなセリフ言われたら、ホントに好きになっちゃうじゃないですかー!!』
私は真っ赤になってパニックを起こし、バッと手を引っ込めた。
「だ、大丈夫です! これくらい、美味しいケーキでも食べれば一発で治りますから!」
「……そうか。なら地上へ戻ったら、生徒会室で最高級のショートケーキを用意してやる」
「本当ですか!? やったぁぁぁ!」
食べ物に釣られて一瞬で元気を取り戻した私を見て、神臣先輩は「フッ……単純な奴だ」と楽しそうに笑った。
だが、その和やかな空気は、インカムから飛び込んできたカイ先輩の悲痛な叫びによって一変した。
『ふ、ふたりとも大変だ!! 今すぐ地上に戻ってきて!!』
「カイ!? どうした、何があった!?」
神臣先輩が表情を一変させ、インカムに手を当てる。
『学園のメインサーバーに、外部から凄まじいサイバー攻撃が仕掛けられてる! ターゲットは……創立者の遺産データ! しかも、中等部の校舎の鍵(セキュリティ)が全部、外部からジャックされて施錠されちゃったんだ!』
「なに……!? 外部からの攻撃だと!?」
『それだけじゃない! ジャックされた校舎の中に……放課後残っていた生徒たちが閉じ込められてる! このままだと、15分後に防犯用のガス噴出システムが誤作動しちゃうよ!』
「くっ……! 創立者のノートにあった「彼ら」の仕業か……!」
神臣先輩が拳を強く握りしめた。
羊皮紙のノートに書かれていた言葉――『汝らが扉を開きし時、彼らもまた動き出す』。
私たちが第一の扉を開けたことで、学園の秘宝を狙う「謎の組織」が本格的に動き出したのだ!
「鈴宮、地上へ戻るぞ! 生徒たちを救出する!」
「はいっ!!」
私は痛む指先をギュッと握りしめ、腰のチタン製ツールポーチを確かめた。
閉じ込められた仲間たち。仕掛けられた罠。そして姿なき敵。
だけど、私にはこの指先と、最高のバディたちがいる!
「待っててください! 学園中のどんなロックでも、私が全部解き明かしてみせますから!」
私は水晶のキューブをポケットに押し込むと、神臣先輩と共に、光の射す地上へ向かって力強く駆け出した。
地下空間全体を揺るがすような、重厚で美しい金属の破砕音が響き渡った。
頭上から迫っていた巨大な鋼鉄ギアが、私たちの頭髪をかすめるわずか数センチ上で『ギギーッ!』と悲鳴を上げてピタリと停止する。
それと同時に、壁を遮断していた四本の巨大アームが力無くスルスルと壁の中へ引っ込んでいった。
青い端末のスクロールが止まり、画面に大きな文字が浮かび上がる。
『UNLOCK COMPLETE――第一防衛ライン、解除』
「……あ……開い……た……」
指先からスッと力が抜け、血の滲んだ即席ピックがパラリと床に転がった。
極度の緊張と全神経の酷使で膝がガクガクと震え、私はその場にへたり込みそうになった。
けれど、倒れ込む前に私を強く抱きとめてくれた腕があった。
「鈴宮……! 大丈夫か!?」
神臣先輩の声だ。
いつも氷のように冷ややかで隙のない先輩が、今は荒い息を吐きながら、私の体を力いっぱい抱きしめている。先輩の胸から、バクバクと早鐘のように打つ心臓の鼓動がダイレクトに伝わってきた。
『あ……神臣先輩も、本当はすごく怖かったんだ……』
私の命を、この部屋の危険を、本気で心配してくれていた。
そのぬくもりが嬉しくて、私は少しだけ力を抜いて先輩の胸元に額を預けた。
「……はい。なんとか……ルシファーちゃんたちの応援のおかげで、開けられました……」
「バカ者、ルシファーではなくお前の指先のおかげだ。……本当によくやった」
神臣先輩の低く優しい声が、頭の上から降ってくる。
その瞬間、ハッと我に返った。
『う、うわわわわっ!? 私、神臣先輩に抱きしめられてる!? 顔面国宝の胸の中にスッポリ収まってるー!?』
一瞬で頭に血が上り、顔が爆発しそうになった。
「ひゃああっ! あ、あの、神臣先輩! もう安全ですから! 離してくださいっ!」
「……あ、ああ。すまん」
神臣先輩も自分が無我夢中で私を抱きしめていたことに気づいたのか、少し耳の先端を赤くして、そっと私を解放してくれた。
『こちらS.O.S本部! ふたりとも無事!? 返事して!』
インカムからカイ先輩の叫び声が飛び込んでくる。
「ああ、カイ。僕も鈴宮も無事だ。第一の扉のロックは……完全に解除された」
『マジでー!? あの悪魔みたいなハイブリッド・ロックを解錠しちゃったの!? 鈴宮ちゃんすごすぎるよー! 伝説だよ伝説!』
カイ先輩の興奮した声を聞きながら、私は立ち上がり、ゆっくりと目の前の扉を見上げた。
ギギギ……と音を立てて、漆黒の巨大な扉が両開きに開いていく。
その奥に広がっていたのは――ほこりっぽいけれど、不思議な温かい光に包まれた部屋だった。
壁一面に並ぶ、見たこともない古書や羊皮紙の棚。
部屋の中央には重厚なオーク材のデスクが置かれ、その上には精巧な天球儀と、何やら怪しげな真鍮製のガジェットが整然と飾られていた。
「ここは……創立者の『秘密の書庫』……?」
神臣先輩が静かに足を踏み入れ、デスクの上の書類に目を通す。
「間違いない。百年前、学園を創設した『神臣 鏡三郎』――僕の曾祖父の執務室だ」
「えっ!? 神臣先輩のご先祖様!?」
「ああ。曾祖父は稀代の発明家であり、カラクリ技師でもあったらしい。だが、ある日突然、学園の地下にいくつもの秘密を残して表舞台から姿を消した……」
神臣先輩がデスクの引き出しを開けると、そこには二つのものが置かれていた。
一つは、古びた革表紙のノート。
そしてもう一つは――青く澄んだ光を放つ、幾何学的な模様が刻まれた『水晶のキューブ』だった。
「これは……?」
神臣先輩がノートを開くと、そこには流麗な文字でこう記されていた。
『七つの扉を破りし者たちへ。
学園の地下深くに封印されし「創立の秘宝」を悪しき者の手から守れ。
この水晶のキューブは、次なる扉を開くための第一の鍵なり。
だが気をつけよ。汝らが扉を開きし時、「彼ら」もまた動き出す……』
「彼ら……?」
私が首を傾げたその時だった。
「痛っ……」
無意識に手を伸ばそうとした瞬間、指先に走った激痛に思わず声を漏らしてしまった。
即席ピックを作ったときに擦りむいた右手の指先から、ポタリと血が滲み出していたのだ。アドレナリンが切れて、急に痛みが襲ってきたらしい。
「鈴宮! 手を見せろ」
神臣先輩が素早く私の腕を掴んだ。
「あ、大したことありません! ちょっと皮が剥けただけで――」
「バカ言え。鍵開け師(クラッカー)にとって、指先は命だろうが」
神臣先輩は眉をひそめると、制服のポケットから清潔なハンカチと小さな救急絆創膏を取り出した。
そして、私の前に片膝をつくと、私の右手を優しく包み込んだ。
「あ……」
先輩の長くて綺麗な指先が、私の傷口をなぞるように優しく触れる。
血を丁寧にハンカチで拭き取り、手際よく絆創膏を巻いてくれた。その動作があまりにも丁寧で、大切に扱われている感じがして、胸の奥がキュンと甘く痛んだ。
「これでよし。……無理をしすぎるな。お前の指先が壊れたら、誰が僕のバディを務めるんだ」
「神臣先輩……」
「それに……お前に怪我をさせたら、僕が嫌なんだ」
ぽつりと溢された先輩の本音。
伏せられた綺麗なまつ毛と、少しだけ照れたように歪められた唇。
『う、うわあああっ!! ダメだって! そんな顔でそんなセリフ言われたら、ホントに好きになっちゃうじゃないですかー!!』
私は真っ赤になってパニックを起こし、バッと手を引っ込めた。
「だ、大丈夫です! これくらい、美味しいケーキでも食べれば一発で治りますから!」
「……そうか。なら地上へ戻ったら、生徒会室で最高級のショートケーキを用意してやる」
「本当ですか!? やったぁぁぁ!」
食べ物に釣られて一瞬で元気を取り戻した私を見て、神臣先輩は「フッ……単純な奴だ」と楽しそうに笑った。
だが、その和やかな空気は、インカムから飛び込んできたカイ先輩の悲痛な叫びによって一変した。
『ふ、ふたりとも大変だ!! 今すぐ地上に戻ってきて!!』
「カイ!? どうした、何があった!?」
神臣先輩が表情を一変させ、インカムに手を当てる。
『学園のメインサーバーに、外部から凄まじいサイバー攻撃が仕掛けられてる! ターゲットは……創立者の遺産データ! しかも、中等部の校舎の鍵(セキュリティ)が全部、外部からジャックされて施錠されちゃったんだ!』
「なに……!? 外部からの攻撃だと!?」
『それだけじゃない! ジャックされた校舎の中に……放課後残っていた生徒たちが閉じ込められてる! このままだと、15分後に防犯用のガス噴出システムが誤作動しちゃうよ!』
「くっ……! 創立者のノートにあった「彼ら」の仕業か……!」
神臣先輩が拳を強く握りしめた。
羊皮紙のノートに書かれていた言葉――『汝らが扉を開きし時、彼らもまた動き出す』。
私たちが第一の扉を開けたことで、学園の秘宝を狙う「謎の組織」が本格的に動き出したのだ!
「鈴宮、地上へ戻るぞ! 生徒たちを救出する!」
「はいっ!!」
私は痛む指先をギュッと握りしめ、腰のチタン製ツールポーチを確かめた。
閉じ込められた仲間たち。仕掛けられた罠。そして姿なき敵。
だけど、私にはこの指先と、最高のバディたちがいる!
「待っててください! 学園中のどんなロックでも、私が全部解き明かしてみせますから!」
私は水晶のキューブをポケットに押し込むと、神臣先輩と共に、光の射す地上へ向かって力強く駆け出した。