秘密の放課後♡ナゾトキ・ライバルとお菓子の暗号
【 09 : 30 】
【 09 : 29 】
壁のタイマーが無慈悲に刻む赤い光が、薄暗い書庫を妖しく照らし出していた。
ウィーンという気味の悪いモーター音とともに、シュレッダーの刃が回転する鋭い音が、私たちの焦りを嫌でも煽ってくる。
「冴島、落ち着いて探すんだ! 『歴史』の棚だ!」
「分かってる! でも、この書庫、本が多すぎてどこに何があるか全然整理されてないよ!」
迷宮のように入り組んだ巨大な本棚の列。
どこを見渡しても、背表紙のタイトルがかすれた古書や巨大な洋書がズラリと並んでいて、目当ての本がどこにあるのか見当もつかない。
(どうしよう……! あと9分ちょっとで『秘伝のゴールド・レシピブック』が木っ端みじんに切り刻まれちゃう……!)
パニックになりかけた私の手を、桐谷が強く握り直した。
「冴島! 図書館の仕組みを思い出せ! どんなに乱雑に見えても、図書室の本は必ず『あるルール』に従って分類されているはずだ!」
「図書館の分類ルール……? あっ!! 日本十進分類法(NDC)!!」
私は思わず叫んだ。
「そうよ! 日本の学校図書館の本は、テーマごとに0から9までの数字で分類されているの! 0類は総記、1類は哲学・宗教……そして『歴史』は2類(200番台)よ!」
「さすがだな! じゃあ、背表紙のラベルの番号が『2』から始まる棚を探せばいいんだな!」
「うん! 本棚の横についている案内プレートを見て!」
桐谷のミニライトが、暗闇の中で本棚の側面を次々と照らし出していく。
『000:情報・百科事典』『100:哲学・心理学』……。
「あった! 『200:歴史・地理』の棚だ!」
奥から3番目の通路。私たちは滑り込むようにその棚へ駆け込んだ。
しかし、ホコリっぽい木製の本棚には、世界史、日本史、郷土史など、何百冊もの厚い本がぎっしり詰まっている。
「歴史の棚だけでこんなにあるの!? この中からたった一冊の仕掛け本を探すなんて無理だよー!」
「諦めるな! 犯人は『歴史の本の中』と言った。普通の本じゃないはずだ。なにか違和感のある一冊があるはずだろ!」
桐谷とふたり、必死になって本棚の背表紙を目で追いかける。
だが、焦れば焦るほど文字が滑って頭に入ってこない。タイマーの電子音が、カウントダウンを進めるたびに『ピピッ』と小さく鳴り響く。
【 06 : 45 】
「くそっ……! どれだ!? どの本なんだ!?」
珍しく桐谷が焦りの色を見せ、額に薄っすらと汗を浮かべていた。
いつも冷静沈着で、何事も余裕たっぷりにこなす学年一の秀才・桐谷翔が、私のために、学校のために、こんなにも必死になってくれている。
(私だって……桐谷の足を引っ張りたくない! 桐谷と一緒に、絶対にこの事件を解決するんだから!)
私は深く息を吸い込み、頭の中を「お菓子と歴史」のデータベースで満たした。
(犯人はお菓子作りの雑学が大好きな奴……だったら、ただの歴史本じゃなくて、『歴史とお菓子』が結びつくテーマの本を選ぶはず!)
「……あ!! 桐谷、上! 上から2段目のあの赤い背表紙!」
私が指さしたのは、金色の箔押しでタイトルが書かれた、一冊の古い大きな洋書だった。
『甘美なる歴史〜世界を動かしたスウィーツの真実〜』
「これだ……! 間違いない!」
桐谷が背伸びをして、高い位置にあるその重厚な本に手を伸ばした。
だが、焦って本を引き抜こうとした瞬間、隣に並んでいた分厚い『世界歴史大百科』の全巻がバランスを崩し、ガラガラと雪崩のように私たちの頭上へ落ちてきた!
「きゃああっ!?」
「危ない、冴島!」
間一髪のところで、桐谷が私の腰を力強く引き寄せ、自分の身体で覆いかぶさるようにかばってくれた。
ドカドカドカッ!!
重たい百科事典が、桐谷の背中や肩に激しくぶつかって床に転がり落ちる。
「痛っ……!」
「桐谷!? 大丈夫!? 怪我はない!?」
「……平気だ。お前が無事なら、どうってことない」
桐谷は背中に百科事典の直撃を受けながらも、私の頭を腕の中にしっかりと抱え込んだまま、一切私に衝撃を伝させなかった。
本棚と桐谷の身体に挟まれた、狭くて暗い隙間。
私の顔のすぐ目と鼻の先に、桐谷の整った顔がある。
荒い息遣いと、ドクンドクンと激しく脈打つ彼の心臓の鼓動が、自分の胸の鼓動と重なって響く。
「桐谷……なんで、私をかばったりするの……? 自分が怪我したら意味ないじゃない……!」
私の声が震えてしまう。
すると桐谷は、苦しそうな表情を一切見せず、暗闇の中で優しく目を細めて微笑んだ。
「当たり前だろ。……お前を怪我させたら、俺が後悔する。パートナーを守るのは当然だ」
「っ……!」
(ずるい……ずるすぎるよ……! こんな時にそんな顔されたら、胸が苦しくて息ができなくなっちゃうじゃん……!)
私の目が涙で潤むのを隠すように、桐谷はそっと私の頬に手を開いて触れると、床に落ちた赤い本を手にとった。
「ほら、お目当ての本だ。脱出して暗号を解くぞ」
「う、うん……!」
私たちは散らかった本を押し分け、本棚の通路から這い出した。
【 04 : 12 】
タイマーの残りは、すでに4分を切っていた!
シュレッダーの刃が回転する「ギギギギ……」という金属音が、ますます高くなっていく。
「開くぞ!」
桐谷が『甘美なる歴史』の表紙をバッとめくった。
すると、本の内部はくり抜かれており、中に古びた羊皮紙が一枚、大事そうに収められていた。
そこに書かれていたのは、歴史上の偉人とスウィーツにまつわる、4つの選択肢(クイズ)だった!
『歴史を刻みし4つの数字を解き明かせ。
一、日本で初めて“織田信長”が南蛮商人から贈られ、その美味しさに大激怒……ではなく大感激したという南蛮菓子『金平糖(コンペイトウ)』。彼が初めてそれを食べた西暦の【下一桁】。
二、フランス王妃マリー・アントワネットが愛した、贅沢なチョコ薬を作らせたことで知られる“チョコレートの歴史”。日本で初めて『チョコラツ』という言葉が文献に記録された西暦1797年の【百の位】。
三、かのナポレオンが戦場にも持参したという“キャンディ”。ナポレオンが皇帝に即位した西暦1804年の【十の位】。
四、江戸時代の日本で、お菓子作りにかかせない“砂糖”を国産化することに成功した第8代将軍・徳川吉宗。彼の“吉”の漢字の画数。
この4つの数字を順に並べよ。それが金庫を開ける鍵となる』
「な、なにこれ……歴史とお菓子の超本格マニアッククイズじゃん! こんなの分かるわけ……!」
桐谷が青ざめた顔で私を見た。
だが、その瞬間、私の頭の中でパズルのピースがカチリと音を立てて組み合わさった。
「ふふん……! 犯人め、相手が悪かったわね!」
私は胸を強く叩いて、ニッと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「お菓子と歴史の雑学なんて、私の大・大・大好物なんだから!!」
「えっ……冴島、解けるのか!?」
「当たり前じゃない! 桐谷、よく聞いてて!」
私は指を立てて、カウントダウンの数字を睨みつけながら爆速で解説を開始した。
「一つ目! 織田信長が宣教師ルイス・フロイスからフラスコに入った金平糖を贈られたのは、西暦1569年! だから下一桁は【9】!」
「1569年!? よくそんな細かい年号覚えてるな……!」
「二つ目! 長崎の丸山遊女の帳簿に『チョコラツ』と書かれたのは西暦1797年! 百の位の数字は【7】!」
「三つ目! ナポレオンがフランス皇帝に即位したのは1804年! 十の位の数字は【0】!」
「そして四つ目! 暴れん坊将軍こと徳川吉宗の『吉』の画数は、士に口で【6】画!」
「ということは……!」
桐谷の目が輝いた。
「9・7・0・6……!! 4桁の暗号は『9706』だ!!」
【 01 : 15 】
「急げ、金庫へ戻るぞ!!」
私たちは手を取り合い、書庫の奥にある金庫目掛けて全力でダッシュした。
タイマーの表示は、刻一刻と【00:59】……【00:58】……と1分を切り始めていた。
シュレッダーの刃が、レシピ用紙を飲み込もうと口を開けて待っている!
「頼む……間に合ってくれ!!」
金庫の前に滑り込み、桐谷が震える指でダイヤルに手を伸ばした――!
【 09 : 29 】
壁のタイマーが無慈悲に刻む赤い光が、薄暗い書庫を妖しく照らし出していた。
ウィーンという気味の悪いモーター音とともに、シュレッダーの刃が回転する鋭い音が、私たちの焦りを嫌でも煽ってくる。
「冴島、落ち着いて探すんだ! 『歴史』の棚だ!」
「分かってる! でも、この書庫、本が多すぎてどこに何があるか全然整理されてないよ!」
迷宮のように入り組んだ巨大な本棚の列。
どこを見渡しても、背表紙のタイトルがかすれた古書や巨大な洋書がズラリと並んでいて、目当ての本がどこにあるのか見当もつかない。
(どうしよう……! あと9分ちょっとで『秘伝のゴールド・レシピブック』が木っ端みじんに切り刻まれちゃう……!)
パニックになりかけた私の手を、桐谷が強く握り直した。
「冴島! 図書館の仕組みを思い出せ! どんなに乱雑に見えても、図書室の本は必ず『あるルール』に従って分類されているはずだ!」
「図書館の分類ルール……? あっ!! 日本十進分類法(NDC)!!」
私は思わず叫んだ。
「そうよ! 日本の学校図書館の本は、テーマごとに0から9までの数字で分類されているの! 0類は総記、1類は哲学・宗教……そして『歴史』は2類(200番台)よ!」
「さすがだな! じゃあ、背表紙のラベルの番号が『2』から始まる棚を探せばいいんだな!」
「うん! 本棚の横についている案内プレートを見て!」
桐谷のミニライトが、暗闇の中で本棚の側面を次々と照らし出していく。
『000:情報・百科事典』『100:哲学・心理学』……。
「あった! 『200:歴史・地理』の棚だ!」
奥から3番目の通路。私たちは滑り込むようにその棚へ駆け込んだ。
しかし、ホコリっぽい木製の本棚には、世界史、日本史、郷土史など、何百冊もの厚い本がぎっしり詰まっている。
「歴史の棚だけでこんなにあるの!? この中からたった一冊の仕掛け本を探すなんて無理だよー!」
「諦めるな! 犯人は『歴史の本の中』と言った。普通の本じゃないはずだ。なにか違和感のある一冊があるはずだろ!」
桐谷とふたり、必死になって本棚の背表紙を目で追いかける。
だが、焦れば焦るほど文字が滑って頭に入ってこない。タイマーの電子音が、カウントダウンを進めるたびに『ピピッ』と小さく鳴り響く。
【 06 : 45 】
「くそっ……! どれだ!? どの本なんだ!?」
珍しく桐谷が焦りの色を見せ、額に薄っすらと汗を浮かべていた。
いつも冷静沈着で、何事も余裕たっぷりにこなす学年一の秀才・桐谷翔が、私のために、学校のために、こんなにも必死になってくれている。
(私だって……桐谷の足を引っ張りたくない! 桐谷と一緒に、絶対にこの事件を解決するんだから!)
私は深く息を吸い込み、頭の中を「お菓子と歴史」のデータベースで満たした。
(犯人はお菓子作りの雑学が大好きな奴……だったら、ただの歴史本じゃなくて、『歴史とお菓子』が結びつくテーマの本を選ぶはず!)
「……あ!! 桐谷、上! 上から2段目のあの赤い背表紙!」
私が指さしたのは、金色の箔押しでタイトルが書かれた、一冊の古い大きな洋書だった。
『甘美なる歴史〜世界を動かしたスウィーツの真実〜』
「これだ……! 間違いない!」
桐谷が背伸びをして、高い位置にあるその重厚な本に手を伸ばした。
だが、焦って本を引き抜こうとした瞬間、隣に並んでいた分厚い『世界歴史大百科』の全巻がバランスを崩し、ガラガラと雪崩のように私たちの頭上へ落ちてきた!
「きゃああっ!?」
「危ない、冴島!」
間一髪のところで、桐谷が私の腰を力強く引き寄せ、自分の身体で覆いかぶさるようにかばってくれた。
ドカドカドカッ!!
重たい百科事典が、桐谷の背中や肩に激しくぶつかって床に転がり落ちる。
「痛っ……!」
「桐谷!? 大丈夫!? 怪我はない!?」
「……平気だ。お前が無事なら、どうってことない」
桐谷は背中に百科事典の直撃を受けながらも、私の頭を腕の中にしっかりと抱え込んだまま、一切私に衝撃を伝させなかった。
本棚と桐谷の身体に挟まれた、狭くて暗い隙間。
私の顔のすぐ目と鼻の先に、桐谷の整った顔がある。
荒い息遣いと、ドクンドクンと激しく脈打つ彼の心臓の鼓動が、自分の胸の鼓動と重なって響く。
「桐谷……なんで、私をかばったりするの……? 自分が怪我したら意味ないじゃない……!」
私の声が震えてしまう。
すると桐谷は、苦しそうな表情を一切見せず、暗闇の中で優しく目を細めて微笑んだ。
「当たり前だろ。……お前を怪我させたら、俺が後悔する。パートナーを守るのは当然だ」
「っ……!」
(ずるい……ずるすぎるよ……! こんな時にそんな顔されたら、胸が苦しくて息ができなくなっちゃうじゃん……!)
私の目が涙で潤むのを隠すように、桐谷はそっと私の頬に手を開いて触れると、床に落ちた赤い本を手にとった。
「ほら、お目当ての本だ。脱出して暗号を解くぞ」
「う、うん……!」
私たちは散らかった本を押し分け、本棚の通路から這い出した。
【 04 : 12 】
タイマーの残りは、すでに4分を切っていた!
シュレッダーの刃が回転する「ギギギギ……」という金属音が、ますます高くなっていく。
「開くぞ!」
桐谷が『甘美なる歴史』の表紙をバッとめくった。
すると、本の内部はくり抜かれており、中に古びた羊皮紙が一枚、大事そうに収められていた。
そこに書かれていたのは、歴史上の偉人とスウィーツにまつわる、4つの選択肢(クイズ)だった!
『歴史を刻みし4つの数字を解き明かせ。
一、日本で初めて“織田信長”が南蛮商人から贈られ、その美味しさに大激怒……ではなく大感激したという南蛮菓子『金平糖(コンペイトウ)』。彼が初めてそれを食べた西暦の【下一桁】。
二、フランス王妃マリー・アントワネットが愛した、贅沢なチョコ薬を作らせたことで知られる“チョコレートの歴史”。日本で初めて『チョコラツ』という言葉が文献に記録された西暦1797年の【百の位】。
三、かのナポレオンが戦場にも持参したという“キャンディ”。ナポレオンが皇帝に即位した西暦1804年の【十の位】。
四、江戸時代の日本で、お菓子作りにかかせない“砂糖”を国産化することに成功した第8代将軍・徳川吉宗。彼の“吉”の漢字の画数。
この4つの数字を順に並べよ。それが金庫を開ける鍵となる』
「な、なにこれ……歴史とお菓子の超本格マニアッククイズじゃん! こんなの分かるわけ……!」
桐谷が青ざめた顔で私を見た。
だが、その瞬間、私の頭の中でパズルのピースがカチリと音を立てて組み合わさった。
「ふふん……! 犯人め、相手が悪かったわね!」
私は胸を強く叩いて、ニッと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「お菓子と歴史の雑学なんて、私の大・大・大好物なんだから!!」
「えっ……冴島、解けるのか!?」
「当たり前じゃない! 桐谷、よく聞いてて!」
私は指を立てて、カウントダウンの数字を睨みつけながら爆速で解説を開始した。
「一つ目! 織田信長が宣教師ルイス・フロイスからフラスコに入った金平糖を贈られたのは、西暦1569年! だから下一桁は【9】!」
「1569年!? よくそんな細かい年号覚えてるな……!」
「二つ目! 長崎の丸山遊女の帳簿に『チョコラツ』と書かれたのは西暦1797年! 百の位の数字は【7】!」
「三つ目! ナポレオンがフランス皇帝に即位したのは1804年! 十の位の数字は【0】!」
「そして四つ目! 暴れん坊将軍こと徳川吉宗の『吉』の画数は、士に口で【6】画!」
「ということは……!」
桐谷の目が輝いた。
「9・7・0・6……!! 4桁の暗号は『9706』だ!!」
【 01 : 15 】
「急げ、金庫へ戻るぞ!!」
私たちは手を取り合い、書庫の奥にある金庫目掛けて全力でダッシュした。
タイマーの表示は、刻一刻と【00:59】……【00:58】……と1分を切り始めていた。
シュレッダーの刃が、レシピ用紙を飲み込もうと口を開けて待っている!
「頼む……間に合ってくれ!!」
金庫の前に滑り込み、桐谷が震える指でダイヤルに手を伸ばした――!