秘密の放課後♡ナゾトキ・ライバルとお菓子の暗号
――そして迎えた、創立記念フェス当日。
秋晴れの澄み渡る青空の下、校庭や校舎は、色とりどりの風船や装飾でポップに彩られていた。
「『黄金のハニーキャンディ・タルト』、完売でーす!!」
調理実習室前の特設ショップから、実行委員の元気な声が響き渡る。
限定100個用意されたタルトは、販売開始からわずか30分で長蛇の列ができ、あっという間に売り切れてしまった。
「すごい大盛況だったね、桐谷!」
人混みから少し離れた中庭のベンチで、私はラムネを飲みながら、隣に座る桐谷に微笑みかけた。
「ああ。来場者アンケートでも『今年のお菓子が過去一番美味しい!』って絶賛だったそうだぞ。神楽坂先輩も、正式な処罰の前に先生方から『最高のフェスにしてくれた』って感謝されて、泣きそうな顔をしてた」
「本当によかった……! 私たちのナゾトキ、無駄じゃなかったね!」
私は秋風に髪をなびかせながら、空を仰いだ。
数前まで、事件に巻き込まれたり密室に閉じ込められたりしてパニックになっていたのが嘘みたいだ。
「……で、冴島」
桐谷がどこか照れくさそうに咳払いをして、膝の上に置いていた大きな白い紙袋を引き寄せた。
「え? なにそれ?」
「忘れたのか? 事件を解決したら、一番美味しい店のイチゴタルトをホールで買ってやるって約束したろ」
「あっ……!!」
桐谷が紙袋から取り出したのは、高級スウィーツ店のロゴが入った、綺麗な丸い箱だった。
フタを開けると――そこには、宝石みたいに真っ赤に熟したイチゴがこれでもかと敷き詰められ、ピカピカのツヤ出し(ナパージュ)が輝く、豪華なイチゴタルトが鎮座していた!
「うわあぁぁぁ……っ!! すごい! 本物のホールのイチゴタルトだぁ……!」
私は目をキラキラさせて歓声を上げた。
「ほら、フォークも用意してある。食うだろ?」
「食べる! 食べるに決まってるじゃない! ありがとう桐谷!」
私はさっそくフォークを受け取り、サクサクのタルト生地と甘酸っぱいイチゴを一口頬張った。
「う~~~んっ!! 最高に美味しいっ! カスタードが濃厚で、イチゴの甘酸っぱさと完璧にマッチしてる……!」
幸せのあまり頬をゆるませる私を、桐谷は肘をついて、どこか愛おしそうな目で見つめていた。
「お前、本当に美味しそうに食うよな。見てるこっちまで腹が減ってくる」
「当たり前じゃない! イチゴタルトは私の一番の大好物なんだから! ……あ、そうだ! 桐谷、イチゴの甘い雑学って知ってる?」
「雑学? イチゴの?」
「うん! イチゴってね、先端(とんがっている方)とヘタ側で、甘さが全然違うの! 太陽の光をたっぷり浴びる先端の方が、糖度が一番高くて甘いんだよ!」
私はフォークでイチゴを指さして、誇らしげに教えた。
「だからね、イチゴを食べる時は『ヘタ側から食べて、最後に先端を食べる』のが、口の中に一番甘さが残って最高に美味しい食べ方なの!」
「ほう……。相変わらず、食いしん坊ならではの無駄に詳しい知識だな」
「無駄じゃないわよ! 美味しく食べるための大事な科学なの!」
私がぷいっと横を向くと、桐谷はくすっと笑って、自分のフォークでタルトの大きなイチゴをひとつすくい上げた。
そして、そのイチゴの先端を――私の口元へとすっと差し出してきたのだ。
「え……?」
「ヘタ側は俺が食ったから、一番甘い先端はお前にやるよ。……ほら、口あけろ」
「っっ……!?!?」
目の前に迫る、真っ赤なイチゴ。
そして、至近距離で私を見つめる、桐谷の柔らかくて甘い瞳。
(あ、あ、あ~ん……!? 桐谷から『あ〜ん』してもらうなんて、聞いてないよーーーっ!?)
私の心臓が、まるで爆竹でも弾けたみたいに猛烈な音を立てて暴れ出した。
顔全体に血が上り、耳の先まで熱くなっていくのが分かる。
「な、なに言ってるのよバカ! 自分、自分で食べられるわよ!」
「手元が塞がってるだろ。早く食わないと落とすぞ」
「うぐっ……!」
意地悪そうに微笑む桐谷に押し切られ、私は意を決してパクリとイチゴを口に含んだ。
じゅわっと口いっぱいに広がる、極上の甘みと甘酸っぱい香り。
だけど、それ以上に胸の奥が甘すぎて、味がよく分からないくらいパニックになってしまう。
「……どうだ? 甘いか?」
「あ……甘いどころじゃないわよ……! 甘すぎて頭がおかしくなりそう……!」
真っ赤になって照れまくる私を見て、桐谷は満足そうに口元をゆるめると、今度は自分のタルト生地を一口食べた。
静かな中庭に、秋の風が優しく吹き抜ける。
フェスの賑やかな歓声が遠くから聞こえる中、ふたりの間に甘くて少し照れくさい時間が流れていった。
「なあ、詩織」
不意に、桐谷が低くて優しい声で呟いた。
「……な、なに? また名前で呼んで……」
「今回の事件……お前とコンビを組めて、本当によかった」
桐谷は膝の上で手を組み、遠くの青空を見つめながら、ぽつりぽつりと気持ちを語り始めた。
「俺さ、今まで一人で何でもこなすのが一番効率がいいと思ってたんだ。テストも、行事も、誰にも頼らずにトップを取ればいいって。……でも、お前と放課後の暗号を解いて、一緒に密室から脱出して、二人で力を合わせて謎を解いた時……一人じゃ絶対に味わえない『楽しさ』を知ったんだ」
桐谷がゆっくりと顔を巡らせ、私を真っ直ぐに見つめ返した。
「お前が隣にいてくれたから、俺は最後まで諦めずにいられた。……お前はただのライバルじゃない。俺にとって、世界で一番特別なパートナーだ」
「桐谷……」
ストレートすぎる彼の言葉が、私の胸の奥深くにストンと落ちていく。
いつもは素直じゃなくて、ナマイキで、テストの点数で競い合ってばかりの彼。
だけど、事件を通じて知った彼の優しさ、頼もしさ、そして私に向けられた温かい眼差し。
(私にとっても……もう桐谷は、ただの『勝つべきライバル』じゃないよ……)
胸がギュッと甘く締め付けられて、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
「……調子狂うじゃない」
「え?」
「急にそんなカッコいいこと言われたら、次の期末テストで本気で勝ちにくくなるじゃない! バカ翔!」
私が照れ隠しに大声で叫ぶと、桐谷は一瞬ぽかんと目を見開いた後、ハハハッ! と声を上げて楽しそうに笑い出した。
「やっぱりお前はそうじゃなくなっちゃな! いいぜ、期末テストも全力で受けて立つ。2点差どころか、今度は5点差をつけて勝ってやるからな」
「言ったわね! 今度こそ私が学年トップになって、今度は最高級のガトーショコラをおごらせてやるんだから!」
「おう、楽しみに待ってるよ」
バチバチとふたりの間に目に見えない火花が散る。
だけど、その火花は以前のような冷たい火花じゃなくて、温かくて甘い、二人だけの特別な絆の証だった。
翌週。
事件もすっかり解決し、平和な日常が戻ってきた私たちの学校。
放課後の廊下に、新しく張り出されたのは――「期末テスト対策! 自習室開放のお知らせ」のプリントだった。
「冴島、今日の放課後、図書室で勉強会するぞ」
「えっ? なんで桐谷と一緒に勉強しなきゃいけないのよ! 自分の手の内を明かすようなものじゃない!」
「お前が化学の呈色反応の計算問題を間違えそうだから、俺が特別に家庭教師になってやるって言ってるんだよ」
「キーッ! 上から目線でむかつく~! でも……まあ、どうしてもって言うなら一緒に行ってあげてもいいけど!」
「はいはい、素直じゃないな」
呆れ顔で歩き出す桐谷の隣に、私は並んで歩き出した。
チラリと横顔を盗み見ると、桐谷の手が、私の手と触れ合いそうなほど近くにある。
昨日の夜、事件の最中に握りしめたあの温かい手。
(まだ告白もされてないし、恋人同士になったわけじゃないけれど……)
放課後の夕暮れの中、並んで伸びるふたりの影。
甘いお菓子の暗号から始まった私たちの「秘密のナゾトキ」は、これからもっと甘くてドキドキする、新しい章へと続いていく――!
「ねえ、桐谷」
「ん?」
「今日の勉強会が終わったら……またあの店のイチゴタルト、半分こして食べよ?」
「……フッ。しょうがないな。お前がテストで満点を取ったら、考えてやるよ」
「絶対に取ってみせるんだから! 覚えてなさい!」
放課後のかすかな甘い香りに包まれながら、私たちの「解明不能な甘い距離感」は、どこまでも続いていくのだった♡
秋晴れの澄み渡る青空の下、校庭や校舎は、色とりどりの風船や装飾でポップに彩られていた。
「『黄金のハニーキャンディ・タルト』、完売でーす!!」
調理実習室前の特設ショップから、実行委員の元気な声が響き渡る。
限定100個用意されたタルトは、販売開始からわずか30分で長蛇の列ができ、あっという間に売り切れてしまった。
「すごい大盛況だったね、桐谷!」
人混みから少し離れた中庭のベンチで、私はラムネを飲みながら、隣に座る桐谷に微笑みかけた。
「ああ。来場者アンケートでも『今年のお菓子が過去一番美味しい!』って絶賛だったそうだぞ。神楽坂先輩も、正式な処罰の前に先生方から『最高のフェスにしてくれた』って感謝されて、泣きそうな顔をしてた」
「本当によかった……! 私たちのナゾトキ、無駄じゃなかったね!」
私は秋風に髪をなびかせながら、空を仰いだ。
数前まで、事件に巻き込まれたり密室に閉じ込められたりしてパニックになっていたのが嘘みたいだ。
「……で、冴島」
桐谷がどこか照れくさそうに咳払いをして、膝の上に置いていた大きな白い紙袋を引き寄せた。
「え? なにそれ?」
「忘れたのか? 事件を解決したら、一番美味しい店のイチゴタルトをホールで買ってやるって約束したろ」
「あっ……!!」
桐谷が紙袋から取り出したのは、高級スウィーツ店のロゴが入った、綺麗な丸い箱だった。
フタを開けると――そこには、宝石みたいに真っ赤に熟したイチゴがこれでもかと敷き詰められ、ピカピカのツヤ出し(ナパージュ)が輝く、豪華なイチゴタルトが鎮座していた!
「うわあぁぁぁ……っ!! すごい! 本物のホールのイチゴタルトだぁ……!」
私は目をキラキラさせて歓声を上げた。
「ほら、フォークも用意してある。食うだろ?」
「食べる! 食べるに決まってるじゃない! ありがとう桐谷!」
私はさっそくフォークを受け取り、サクサクのタルト生地と甘酸っぱいイチゴを一口頬張った。
「う~~~んっ!! 最高に美味しいっ! カスタードが濃厚で、イチゴの甘酸っぱさと完璧にマッチしてる……!」
幸せのあまり頬をゆるませる私を、桐谷は肘をついて、どこか愛おしそうな目で見つめていた。
「お前、本当に美味しそうに食うよな。見てるこっちまで腹が減ってくる」
「当たり前じゃない! イチゴタルトは私の一番の大好物なんだから! ……あ、そうだ! 桐谷、イチゴの甘い雑学って知ってる?」
「雑学? イチゴの?」
「うん! イチゴってね、先端(とんがっている方)とヘタ側で、甘さが全然違うの! 太陽の光をたっぷり浴びる先端の方が、糖度が一番高くて甘いんだよ!」
私はフォークでイチゴを指さして、誇らしげに教えた。
「だからね、イチゴを食べる時は『ヘタ側から食べて、最後に先端を食べる』のが、口の中に一番甘さが残って最高に美味しい食べ方なの!」
「ほう……。相変わらず、食いしん坊ならではの無駄に詳しい知識だな」
「無駄じゃないわよ! 美味しく食べるための大事な科学なの!」
私がぷいっと横を向くと、桐谷はくすっと笑って、自分のフォークでタルトの大きなイチゴをひとつすくい上げた。
そして、そのイチゴの先端を――私の口元へとすっと差し出してきたのだ。
「え……?」
「ヘタ側は俺が食ったから、一番甘い先端はお前にやるよ。……ほら、口あけろ」
「っっ……!?!?」
目の前に迫る、真っ赤なイチゴ。
そして、至近距離で私を見つめる、桐谷の柔らかくて甘い瞳。
(あ、あ、あ~ん……!? 桐谷から『あ〜ん』してもらうなんて、聞いてないよーーーっ!?)
私の心臓が、まるで爆竹でも弾けたみたいに猛烈な音を立てて暴れ出した。
顔全体に血が上り、耳の先まで熱くなっていくのが分かる。
「な、なに言ってるのよバカ! 自分、自分で食べられるわよ!」
「手元が塞がってるだろ。早く食わないと落とすぞ」
「うぐっ……!」
意地悪そうに微笑む桐谷に押し切られ、私は意を決してパクリとイチゴを口に含んだ。
じゅわっと口いっぱいに広がる、極上の甘みと甘酸っぱい香り。
だけど、それ以上に胸の奥が甘すぎて、味がよく分からないくらいパニックになってしまう。
「……どうだ? 甘いか?」
「あ……甘いどころじゃないわよ……! 甘すぎて頭がおかしくなりそう……!」
真っ赤になって照れまくる私を見て、桐谷は満足そうに口元をゆるめると、今度は自分のタルト生地を一口食べた。
静かな中庭に、秋の風が優しく吹き抜ける。
フェスの賑やかな歓声が遠くから聞こえる中、ふたりの間に甘くて少し照れくさい時間が流れていった。
「なあ、詩織」
不意に、桐谷が低くて優しい声で呟いた。
「……な、なに? また名前で呼んで……」
「今回の事件……お前とコンビを組めて、本当によかった」
桐谷は膝の上で手を組み、遠くの青空を見つめながら、ぽつりぽつりと気持ちを語り始めた。
「俺さ、今まで一人で何でもこなすのが一番効率がいいと思ってたんだ。テストも、行事も、誰にも頼らずにトップを取ればいいって。……でも、お前と放課後の暗号を解いて、一緒に密室から脱出して、二人で力を合わせて謎を解いた時……一人じゃ絶対に味わえない『楽しさ』を知ったんだ」
桐谷がゆっくりと顔を巡らせ、私を真っ直ぐに見つめ返した。
「お前が隣にいてくれたから、俺は最後まで諦めずにいられた。……お前はただのライバルじゃない。俺にとって、世界で一番特別なパートナーだ」
「桐谷……」
ストレートすぎる彼の言葉が、私の胸の奥深くにストンと落ちていく。
いつもは素直じゃなくて、ナマイキで、テストの点数で競い合ってばかりの彼。
だけど、事件を通じて知った彼の優しさ、頼もしさ、そして私に向けられた温かい眼差し。
(私にとっても……もう桐谷は、ただの『勝つべきライバル』じゃないよ……)
胸がギュッと甘く締め付けられて、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
「……調子狂うじゃない」
「え?」
「急にそんなカッコいいこと言われたら、次の期末テストで本気で勝ちにくくなるじゃない! バカ翔!」
私が照れ隠しに大声で叫ぶと、桐谷は一瞬ぽかんと目を見開いた後、ハハハッ! と声を上げて楽しそうに笑い出した。
「やっぱりお前はそうじゃなくなっちゃな! いいぜ、期末テストも全力で受けて立つ。2点差どころか、今度は5点差をつけて勝ってやるからな」
「言ったわね! 今度こそ私が学年トップになって、今度は最高級のガトーショコラをおごらせてやるんだから!」
「おう、楽しみに待ってるよ」
バチバチとふたりの間に目に見えない火花が散る。
だけど、その火花は以前のような冷たい火花じゃなくて、温かくて甘い、二人だけの特別な絆の証だった。
翌週。
事件もすっかり解決し、平和な日常が戻ってきた私たちの学校。
放課後の廊下に、新しく張り出されたのは――「期末テスト対策! 自習室開放のお知らせ」のプリントだった。
「冴島、今日の放課後、図書室で勉強会するぞ」
「えっ? なんで桐谷と一緒に勉強しなきゃいけないのよ! 自分の手の内を明かすようなものじゃない!」
「お前が化学の呈色反応の計算問題を間違えそうだから、俺が特別に家庭教師になってやるって言ってるんだよ」
「キーッ! 上から目線でむかつく~! でも……まあ、どうしてもって言うなら一緒に行ってあげてもいいけど!」
「はいはい、素直じゃないな」
呆れ顔で歩き出す桐谷の隣に、私は並んで歩き出した。
チラリと横顔を盗み見ると、桐谷の手が、私の手と触れ合いそうなほど近くにある。
昨日の夜、事件の最中に握りしめたあの温かい手。
(まだ告白もされてないし、恋人同士になったわけじゃないけれど……)
放課後の夕暮れの中、並んで伸びるふたりの影。
甘いお菓子の暗号から始まった私たちの「秘密のナゾトキ」は、これからもっと甘くてドキドキする、新しい章へと続いていく――!
「ねえ、桐谷」
「ん?」
「今日の勉強会が終わったら……またあの店のイチゴタルト、半分こして食べよ?」
「……フッ。しょうがないな。お前がテストで満点を取ったら、考えてやるよ」
「絶対に取ってみせるんだから! 覚えてなさい!」
放課後のかすかな甘い香りに包まれながら、私たちの「解明不能な甘い距離感」は、どこまでも続いていくのだった♡