楽園で紅茶とチョコレートを
17
〈どう答えれば彼女にショックを与えずに済むのか〉
ロザリーに「予感」があるのなら、誤魔化すことは出来ない。ダレンはロザリーの前で正直で居たかった。ダレンは思わず黙ってしまった。
そのダレンを見てロザリーは優しく微笑む。
「いいの。ダレン。私に気を遣ってくれたのね。あなたと出会って、一つ分かったことがあるの。私がダレンのことを大切に思っているように、ダレンも私のことを大切に思ってくれているということ。ありがとう」
二人はしばらく黙ってしまう。
その沈黙の後、ダレンが下を向いて言う。
「何か俺に出来ることがあるのなら、君のために何かしてあげたいと思っている。でも、悔しいけれど俺に特別な力は何もないんだ」
ダレンのその言葉を聞いたロザリーが「ううん」と言う。
「ダレンに出来ることはあるわ」
ダレンはその顔を上げて彼女を見た。
ロザリーは「その続き」を言うことを戸惑っていた。ダレンは彼女に「教えてほしい」と言う。彼女は「だって」と、ダレンに伝えることを躊躇していた。
「だって。こんなことを言ったらダレンが困るかなって思って」
「困ることなんてないよ。ロザリー」
「本当に?」
「ああ。何でも言ってくれ」
「私は、あなたに一度でいいから抱きしめられたい」
ダレンは「その願い」を聞いて、彼女を強く抱きしめた。
ダレンの胸の中。ロザリーはそっと目を閉じてダレンを感じた。二人は、それが互いに望んでいたことだと知る。時の中で、一瞬でも、心が満たされていくことを感じて「もっと早くこうしていればよかった」と感じた。
ロザリーはそっと離れて、ダレンの目を見て伝える。
「ダレン。あなたは私を抱きしめてくれた。それはあなたにだけにしか出来ないこと「好きな相手から抱きしめられる」という、私の願いを叶えてくれたのはあなたなの。私は今「幸せ」を感じた。これは私の中で何よりも特別なこと」
ロザリーは思い出したことを語っていく。
「あれから80年以上が過ぎた。亡くなってからのことを思い出したの。いつも命日に本当のことを思い出す。昨日まで、私は「長い間眠っていた」と思っていた。でも、一年ごとに消えて、その一年の記憶を失っているのだと分かった」
「ロザリーは寂しくなかった?」
「寂しかった。だけど、15年前。ジェームズが来てくれて少し寂しくなくなった。私は、ダレンとこの邸で会うことをずっと待っていた。ダレンが「未来からやって来た」というその言葉を信じたの。この邸に居れば会えると。この邸では辛いことも多くあったわ。でも今、寂しくないわ。ダレンとジェームズが居るから」
ロザリーは立ち上がって一歩、窓へ歩く。
「私は一年ごとに「ダレンに会いたい」と言って消えていたの。私はずっと「穏やかな地獄」に居たんだと思う。でも、今はここにダレンが居る。もう地獄ではないの。だって他に望むことはないから」
「他に何も要らない?」
ロザリーがダレンに振り向く。
「私、他に何がほしいのかな? そうね」
ロザリーはダレンのもとへ歩いてきてその顔を近づけた。
「人はいつの日か死ぬけれど、それを越える出会いが私に用意されていた。あなたがこの邸に来てくれたこと、邸に居てくれたこと。それがそれが私の幸せだった。時を越えて「あなたに出会えてよかった」ダレン」
ロザリーはダレンの唇に触れるだけのキスをした。
「ありがとう。ダレンのこと好きよ。愛している」
精一杯のキスの後、彼女は照れるような笑みを見せる。その後で、彼女は砂のように崩れて消えた。
* * * * *
ダレンは呆然として、動けずにいた。
『お二人は出会ったんですよ。そして「想い」も伝わった』
ジェームズが部屋の中に現れた。
「ジェームズ」
ジェームズはダレンに話していく。
「この邸に、彼女はずっと一人でした」
ダレンはジェームズの話を黙って聞いていた。
「私は大蜘蛛の姿で、窓越しに邸の中を見ていました「あわよくば彼女を食べてやろう」とね。しかしどうも様子がおかしい。彼女は悲しそうだ。そうしているうちに「彼女が生きていないこと」に気付いた。私は彼女を食べることが出来ないと知った」
ジェームズは話しながら部屋の中の木香薔薇を見る。
「それでも私は、度々、邸に来て彼女を見ていたんです」
「それは何故なんだ?」
「彼女は時折泣いていた。私には、どうして泣いているのか分からなかった。大樹の中で、長い時間を一匹で生きていた私には。その涙の意味を知るために、私は人の姿に化けて「新しく来た執事です」と邸に潜り込んだ」
ジェームズは静かに話していく。
「彼女と出会って初めての命日に。私は泣いている彼女に「あなたはどうして泣いているのですか?」と聞いたのです。彼女は「寂しくて悲しくて泣いている。ダレンに会いたい」と私に答えました。それでも、最後には無理に笑みを作ってみせて「ジェームズ。ありがとう」と言ったんですよ」
ダレンは初めて「ジェームズの感情」を感じ取る。
「不覚にも、あの時「この娘の願いを叶えてやりたい」と思ってしまった。その願いが叶うまで、少しでもこの娘を、寂しさや悲しみから守ってやりたいとも思ったんです。もっとも、私は大蜘蛛ですがね」
ジェームズがダレンに聞く。
「そう思うことはおかしいですか? ダレン」
ダレンは動かずに彼に答える。
「おかくしくなんてないさ。俺も同じ気持ちだよ。ジェームズ」
〈どう答えれば彼女にショックを与えずに済むのか〉
ロザリーに「予感」があるのなら、誤魔化すことは出来ない。ダレンはロザリーの前で正直で居たかった。ダレンは思わず黙ってしまった。
そのダレンを見てロザリーは優しく微笑む。
「いいの。ダレン。私に気を遣ってくれたのね。あなたと出会って、一つ分かったことがあるの。私がダレンのことを大切に思っているように、ダレンも私のことを大切に思ってくれているということ。ありがとう」
二人はしばらく黙ってしまう。
その沈黙の後、ダレンが下を向いて言う。
「何か俺に出来ることがあるのなら、君のために何かしてあげたいと思っている。でも、悔しいけれど俺に特別な力は何もないんだ」
ダレンのその言葉を聞いたロザリーが「ううん」と言う。
「ダレンに出来ることはあるわ」
ダレンはその顔を上げて彼女を見た。
ロザリーは「その続き」を言うことを戸惑っていた。ダレンは彼女に「教えてほしい」と言う。彼女は「だって」と、ダレンに伝えることを躊躇していた。
「だって。こんなことを言ったらダレンが困るかなって思って」
「困ることなんてないよ。ロザリー」
「本当に?」
「ああ。何でも言ってくれ」
「私は、あなたに一度でいいから抱きしめられたい」
ダレンは「その願い」を聞いて、彼女を強く抱きしめた。
ダレンの胸の中。ロザリーはそっと目を閉じてダレンを感じた。二人は、それが互いに望んでいたことだと知る。時の中で、一瞬でも、心が満たされていくことを感じて「もっと早くこうしていればよかった」と感じた。
ロザリーはそっと離れて、ダレンの目を見て伝える。
「ダレン。あなたは私を抱きしめてくれた。それはあなたにだけにしか出来ないこと「好きな相手から抱きしめられる」という、私の願いを叶えてくれたのはあなたなの。私は今「幸せ」を感じた。これは私の中で何よりも特別なこと」
ロザリーは思い出したことを語っていく。
「あれから80年以上が過ぎた。亡くなってからのことを思い出したの。いつも命日に本当のことを思い出す。昨日まで、私は「長い間眠っていた」と思っていた。でも、一年ごとに消えて、その一年の記憶を失っているのだと分かった」
「ロザリーは寂しくなかった?」
「寂しかった。だけど、15年前。ジェームズが来てくれて少し寂しくなくなった。私は、ダレンとこの邸で会うことをずっと待っていた。ダレンが「未来からやって来た」というその言葉を信じたの。この邸に居れば会えると。この邸では辛いことも多くあったわ。でも今、寂しくないわ。ダレンとジェームズが居るから」
ロザリーは立ち上がって一歩、窓へ歩く。
「私は一年ごとに「ダレンに会いたい」と言って消えていたの。私はずっと「穏やかな地獄」に居たんだと思う。でも、今はここにダレンが居る。もう地獄ではないの。だって他に望むことはないから」
「他に何も要らない?」
ロザリーがダレンに振り向く。
「私、他に何がほしいのかな? そうね」
ロザリーはダレンのもとへ歩いてきてその顔を近づけた。
「人はいつの日か死ぬけれど、それを越える出会いが私に用意されていた。あなたがこの邸に来てくれたこと、邸に居てくれたこと。それがそれが私の幸せだった。時を越えて「あなたに出会えてよかった」ダレン」
ロザリーはダレンの唇に触れるだけのキスをした。
「ありがとう。ダレンのこと好きよ。愛している」
精一杯のキスの後、彼女は照れるような笑みを見せる。その後で、彼女は砂のように崩れて消えた。
* * * * *
ダレンは呆然として、動けずにいた。
『お二人は出会ったんですよ。そして「想い」も伝わった』
ジェームズが部屋の中に現れた。
「ジェームズ」
ジェームズはダレンに話していく。
「この邸に、彼女はずっと一人でした」
ダレンはジェームズの話を黙って聞いていた。
「私は大蜘蛛の姿で、窓越しに邸の中を見ていました「あわよくば彼女を食べてやろう」とね。しかしどうも様子がおかしい。彼女は悲しそうだ。そうしているうちに「彼女が生きていないこと」に気付いた。私は彼女を食べることが出来ないと知った」
ジェームズは話しながら部屋の中の木香薔薇を見る。
「それでも私は、度々、邸に来て彼女を見ていたんです」
「それは何故なんだ?」
「彼女は時折泣いていた。私には、どうして泣いているのか分からなかった。大樹の中で、長い時間を一匹で生きていた私には。その涙の意味を知るために、私は人の姿に化けて「新しく来た執事です」と邸に潜り込んだ」
ジェームズは静かに話していく。
「彼女と出会って初めての命日に。私は泣いている彼女に「あなたはどうして泣いているのですか?」と聞いたのです。彼女は「寂しくて悲しくて泣いている。ダレンに会いたい」と私に答えました。それでも、最後には無理に笑みを作ってみせて「ジェームズ。ありがとう」と言ったんですよ」
ダレンは初めて「ジェームズの感情」を感じ取る。
「不覚にも、あの時「この娘の願いを叶えてやりたい」と思ってしまった。その願いが叶うまで、少しでもこの娘を、寂しさや悲しみから守ってやりたいとも思ったんです。もっとも、私は大蜘蛛ですがね」
ジェームズがダレンに聞く。
「そう思うことはおかしいですか? ダレン」
ダレンは動かずに彼に答える。
「おかくしくなんてないさ。俺も同じ気持ちだよ。ジェームズ」