楽園で紅茶とチョコレートを
 16

 後日。ダレンは起きると、着替えてキッチンへ向かった。
「体調は回復しましたか? ダレン」
 ジェームズがダレンに聞いてくる。
「ああ。二日休んで大分回復したよ」
「よろしい。人は脆いので体調には気を付けるように」
 ジェームズはそう言いながらダレンの朝食を示す。固いパンと、トマトと豆のスープと干し肉。安物のチーズと、干し葡萄の朝食。ジェームズはダレンに朝食を示した後、彼は今日の新聞を読むためにキッチンを後にして応接間へ戻ろうとした。
「なあ、ジェームズ」
 ダレンの言葉でジェームズは立ち止まり、振り向く。
「何かありましたか。ダレン」
 ダレンは「そのこと」をついにジェームズに聞いた。
「彼女「ロザリア・チャペル」は既に亡くなっているのか? 俺は、過去で「亡くなっているロザリー」を見た。木香薔薇の敷き詰められた棺桶の中で、彼女は眠るようにして亡くなっていた。ずっと、どこかで分かっていたけれど、言葉にしなかった。でも、ロザリーは、もう生きていないよな?」

 ジェームズは「ええ。そうですよ」と無愛想に言った。
「ロザリーは、彼女は幽霊なのか?」
「ええ、そうなりますね。彼女の魂は、死後もこの邸の中に留まっていて、自身が死んでいることに、薄々気付いていながらも、そこに関する記憶が抜け落ちているようですね。まあ、幽霊にはよくあることですよ」
「そうなのか? まあ、自分が死んだ記憶を覚えていない方がいいのかもな。すると彼女には「終わり」はないってことなのか?」
「いいえ。彼女は「命日」に一度消えます。魂は邸に留まりながら、命日に死んでいることに気付き、その日に消えるのです」
「それはいつのことだ?」
「ちょうど三日後ですよ」
「三日後だって?」
 驚いたダレンはジェームズに聞いた。
「ジェームズ。それを止める方法はないのか?」
「私は知りませんね。止めることは不可能だと思われますよ。ダレン。朝食を食べ終わったら食器を片付けて、その後は今日の清掃をするように」
 ジェームズはそう言ってキッチンを出ていく。
 残されたダレンは朝食の席に着いてから呟く。
「俺は何をすればいいんだ?」
 浮かない気持ちの中で「でも、まずは朝食を食べないと」と高級な食器の上の、代わり映えのない質素な朝食を食べる。食べながらも「自分がロザリーのために出来ることはあるだろうか」とずっと考えていた。

 * * * * *

 ロザリーの「命日」までの三日間。ダレンは「彼女を救う方法」をこの邸の中で探した。考えた。だが、今のダレンには分からなかった。そうしているうちにロザリーの「命日」が訪れる。ジェームズの言うところの「一度消える日」に。

 * * * * *

「その日」淡い光の午後。ジェームズは紅茶一式をダレンに示す。
「ダレン。お嬢様のもとへと紅茶を持っていきなさい」
「ああ。行ってくるよ」
 ダレンは用意されていた紅茶一式を銀のトレイに乗せて、ロザリーの部屋へと向かう。彼女の部屋へ向かう時、ダレンは少し不安だった。
〈今日がロザリーが亡くなった日だ。何かが起こるかもしれない。あるいは何も起こらないのかもしれない。それが分からない中で「心の安定」を見つけることは難しいよな。俺、動揺しているんだ。落ち着かなきゃな〉
 ダレンは紅茶一式の乗った銀のトレイを持って、階段を登って二階の彼女の部屋の扉の前に立つ。未だにざわつく心を落ち着かせるように、ダレンは小さく深呼吸してから、彼女の部屋の扉を丁寧にノックした。
「ロザリー。紅茶を持ってきたよ」
 少し待つと扉が開かれて、迎えたロザリーがダレンに微笑む。
「どうぞ。入ってダレン。一緒にお話しましょう」
「あ、ああ。そうさせてもらうね」

 ダレンはロザリーの部屋の中に入った。
 紅茶一式を机に置いた後、ダレンは「座って」と促されてベッドの上に静かに座った。ロザリーはダレンの隣に座った。
 部屋の中には「木香薔薇」があった。
 二人は一つ、二つ、会話をした。だが、今日は二人の会話が途切れてしまった。ダレンは心のうちで〈何を話そうか?〉と考える。心の中で〈俺が動揺していたらロザリーに余計な不安を与えてしまうよな〉とも考えた。
 ダレンは心の中で「騎士」をイメージした。
 彼女を守る抜く強い騎士を。
〈そうだ。俺は何があっても彼女を守るべきなんだ〉
 そう考えると、ダレンの気持ちは落ち着いた。ダレンは、ようやくロザリーの表情がいつもと少し違うことに気付く。それは、どこか不安を抱えているような、胸のうちに言いたい言葉を抱えているような表情だった。
「ロザリー。何かあったのか?」
 ダレンにそう聞かれたロザリーは「えっとね」と言って、少し黙ってしまう。それでも、彼女は意を決してダレンへ伝える。
「ねえ、ダレン。私は「既に死んでいる」のかも」
< 16 / 18 >

この作品をシェア

pagetop