想定外につき、対処不能
 彼女はおもむろに俺の両手を掴み、こちらを見据えたまま、口を開いた。

「木崎柊介、君を確保する。最後に言いたいことはあるか」

 直ぐに俺は息を呑んだ。あまりにも真剣で、綺麗な眼差しが向けられている。

 それは知り合ったばかりの頃に、見ていた目と一緒だった。

 昔の記憶など、当然役には立たない。でも、俺は……。

「僕は、君の担当でした。おそらく近いうちに辞令が下りて、また戻ることになります」

 彼女は静かに瞬きをした。

「それでも、君は……」

 俺はそこで口を閉じた。

「それの何がいけないの?」

 どうして、彼女は先回りをしてくるのか。いや、俺が……。

「そうは言ってない。けど、僕にも事情がある」

 思わず声を上げていた。

「どんな?」

 彼女は躊躇うことを知らない。

「周りの理解や説明もそうだし、何より見る目が変わってくる」

 俺は必死で次の言葉を探した。それでも……。

「怖いの?」

「違う」

「じゃあ、なに?」

 彼女は詰めてくるのを止めない。

「俺は、君のことが好きだ」

 口にしてから、漸く気付いた。しかし……。

「それなら、教えてあげる」

 そう言って、彼女は俺の左手を取り、膨らんだ胸元に当てた。

 とても速くて、数え切れないほどの高鳴りが、手の平に伝わってきた。

 俺は、どうしようもなくなって、彼女の唇を奪うようにキスをした。

 何度か重ねるうちに、彼女が応えてきて、俺は夢中で追い求めた。

 吐き出す吐息も、微かに赤く染まった頬も、可愛らしい額や綺麗な髪の毛も、キスをした。

 彼女の左手が俺の頬に触れると、その手を取り、指を絡めて、深く交わした。

 小さな手の平から、俺の手を下の方へ滑らせ、細い腰に触れた瞬間だった。

「柊介、ベッドに連れてって……」

 囁くような声が、耳元で艶めかしく響いた。

 そこで、俺は手を止め、彼女から少し体を離した。

「それは、ダメです」

「どうして?」

 俺が想うことを、彼女は素知らぬ顔で躱してくる。
 これ以上、進んでしまえば、弊害が生じる。

「俺は、璃乃を大事にしたい」

 ついに口にしてしまった。

「ここまでしといて?」

 いたずらに笑う顔が、可愛いけど、憎らしい。

「これから、二人で、考えましょう」

 声が上ずっていた。

「じゃあ」と言って、彼女は身体を翻し、素早く俺の背後を取った。

 そして俺が振り向くと、両手を広げて、口を開いた。

「ハグして。それで、許す」

「お望み通りに」

 俺は彼女を優しく抱きしめた。髪の香りや、柔らかい感触を確かめていると、耳元で彼女が囁いた。

「今日は泊まって行くね」

 どうやら、俺は解放されないらしい。

 余罪があるから仕方ないけど、どれだけ時間を掛けても彼女には敵わない。

 この先は考えない方が身のためだ。そう考えて、彼女を少し強く抱きしめた。
< 14 / 14 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

その青は廻る   ①

総文字数/39,063

恋愛(その他)42ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
これが恋ならば それは運命ではなくて ただの偶然だった 春の桜が舞い落ちるように 夏は水を跳ねるように 秋に木の葉が重なるように 冬を二人で温め合うように 跡を残せば、誰かの道標になるのかもしれない ーーーーーーーーーーーーーー 2026,9,9執筆終了。2026,9,12加筆終了。完結。 前までに上げていた物を壊して、新たな物語として作り直しました。余白のあるものにしたので、読み返して想像しながら読んでもらえると幸いです。
その青は還る 完結

総文字数/27,201

恋愛(その他)26ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
俺にあったのは、金だけだった。 歌うことは捨てた。 感情も捨てた。 ただ、一つだけあった。 それだけは、どうしても手放せなかった。 ーーーーーーーーーーーーーー 2026.9.27執筆終了。完結。 ①②③を読んでから、読んでもらえると幸いです。
その青を描く  ③

総文字数/10,436

恋愛(その他)10ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
俺はその時、あいつから手を離した。 でも、関係は続いていく。 だって、幼馴染だから。 その青を廻る、その青は沈む、を読んでから、読み進めてもらえると幸いです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 2026.9.20執筆終了、完結。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop