『いつからか、君が特別だった』
第一章
1、出会い
大学生活にも、少しずつ慣れてきた頃。
私は、親友の莉央と二人で大学の中庭を歩いていた。
大学に入ってからの私は、授業を受けて、アルバイトに行って。
そんな毎日を繰り返している。
もともと私は、何かに積極的に飛び込んでいくタイプではない。
誘われれば行ってみるけれど、自分から「やってみたい」と思って動くことは、あまりなかった。
そんな私とは反対に、莉央はいつも明るくて優しくて、人との距離を縮めるのが上手だった。
莉央とは、高校からの親友だ。
高校でも、大学でも、気づけばいつも一緒にいる。
「ねえ、紗季」
「ん……?」
隣を歩いていた莉央が、ふいに私の顔を見る。
「私、サークル入ろうかなって思ってるんだけど」
「サークル?」
「うん。友達に誘われたの」
「へぇ……」
私は少しだけ首を傾けた。
「何のサークル?」
「写真」
「写真?」
「そう。そんなに本格的じゃないみたい。みんなで写真撮りに行ったり、ご飯食べたりする感じなんだって」
「楽しそう……」
思わずそう呟くと、莉央が嬉しそうに笑った。
「でしょ?」
「うん」
「紗季も一緒に入らない?」
「私も……?」
「うん。紗季がいたら嬉しいし」
そう言われて、私は少し考えた。
大学に入ってから、授業とアルバイトの繰り返し。
それが嫌だったわけではないけれど、何か新しいことを始めるのも悪くない気がした。
それに、莉央と一緒なら。
「……じゃあ、行ってみようかな?」
「ほんと?」
「うん」
「やった」
莉央が嬉しそうに笑う。
その顔を見ていると、私まで嬉しくなる。
その日の帰り道。
莉央から、サークルのことをいろいろ聞いた。
どんな人がいるのか。
いつ活動しているのか。
今度はどこへ写真を撮りに行くのか。
私は相槌を打ちながら聞いていた。
「そういえば、蓮もそのサークル入るって」
「蓮くんも?」
「うん」
「そうなんだぁ」
名前を聞いて、少しだけ考える。
蓮くんは、莉央の知り合い。
私も何度か顔を合わせたことがある。
「知ってる人がいるなら安心だね?」
「でしょ!」
莉央が笑う。
「あと、蓮が友達も誘うって言ってた」
「友達?」
「うん。高瀬湊くんってほら、爽やかなイケメンくん!」
「高瀬湊くん……」
まだ顔も知らない人の名前を、私は小さく繰り返した。
それが、この先何年も私の中に残る名前になるなんて。
そのときの私は、知るはずもなかった。