『いつからか、君が特別だった』
***
サークルに初めて顔を出した日。
莉央の後ろをついて指定された講義室に入ると、すでに何人かが集まっていた。
「お、桜井!来てくれてサンキューな」
「ううん、全然!楽しそうだし!」
そう答えた莉央が、教室の中を見回す。
そのとき。
「あ、蓮!」
ぱっと表情が明るくなった。
視線の先には、教室の奥に座っている蓮くんがいた。
「お、やっと来たな!」
「うん!紗季も一緒」
「そっか」
蓮くんはそう言いながら立ち上がると、私たちのほうへ歩いてきた。
「紗季ちゃんも入ったんだね」
「うん。莉央に誘ってもらって……」
「そっか」
蓮くんがそう言って、莉央を見る。
「莉央、ちゃんと場所分かった?」
「分かったよ」
「ならよかった」
「もうっ!子どもじゃないんだから」
莉央が少し頬を膨らませる。
それを見て、蓮くんが小さく笑い、莉央の頭を優しくポンポンと撫でる。
「はいはい」
「……もう」
莉央は少し恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうだった。
蓮くんとのやりとりでこんなに嬉しそうになるんだ。
(ふふ、莉央かわいいな〜)
私は微笑みながら二人を見つめ、
そんなことを思った。
それから蓮くんと目が合うと、自己紹介をしてくれた。
「改めてだけど、神谷蓮です。よろしく」
「……桐谷紗季です。よろしくお願いします」
「うん。何度か会ってるけど一応ね」
「あ、はい……」
私は小さく頭を下げた。
すると、少し離れたところから、声が聞こえてきた。
「え、あの子って……」
「桜井の友達じゃない?」
「ああ、紗季ちゃん?」
「そうそう」
「うちの大学の天使って呼ばれてる子だよな?」
「え、そうなの?」
なんとなく声のするほうを見る。
男の子たちと目が合うと、二人とも少し気まずそうに視線を逸らした。
……何の話だったんだろう。
聞こえてきた言葉を思い返してみるけれど、よく分からない。
私は小さく首を傾げて、莉央の隣を歩いた。
「紗季、どうしたの?」
莉央が不思議そうに私を見る。
「ううん……なんでもない」
「そう?」
莉央は首を傾げた。
私は小さく笑って、また前を向く。
大学に入ってから、たまにこういうことがあった。
「桜井の友達の紗季ちゃんだよね」
「この前、学食にいたよね」
そんなふうに声をかけられることもある。
人気者の莉央と一緒にいることが多いから、そのついでに覚えてもらっているのかな。
「紗季ちゃん、写真とか撮るの?」
蓮くんに聞かれて、顔を上げる。
「まだ、そんなに……。でも、好きです」
「そっか。じゃあ、これから楽しめそうだな」
「うん……楽しみです」
そう答えると、蓮くんが笑った。
その横で、莉央も嬉しそうに笑っている。
私は二人を見ながら、なんとなく微笑んだ。
そのとき。
「お、蓮。もう来てたんだ」
教室の扉が開いた。
入ってきたのは、さっき聞いた名前の人だった。
「あ、湊」
蓮くんが手を上げる。
「ごめん、待った?」
「別に」
「よかった!てか、結構いるじゃん」
彼が教室を見回す。
「今日から入る人もいるから」
蓮くんが答える。
その人と目が合った。
私は反射的に、ぺこっと頭を下げる。
すると向こうも笑って、軽く会釈を返した。
「高瀬湊。よろしく!」
「……桐谷紗季です。よろしくお願いします」
「紗季ちゃんね」
「はい……」
「俺、湊。蓮の友達」
「……知ってます」
そう答えてから、彼は目を丸くした。
「え?」
「あ…さっき自己紹介して、名前を聞いてたから……」
「ああ、そっか…確かに、何でもう一回言ったんだろ笑」
そう言いながら彼が笑った。
「びっくりした!俺のこと知ってるのかと思った、」
「ふふ……」
なんだかおかしくて、私も笑ってしまう。
初めて会ったばかりなのに。
不思議と、緊張しなかった。