豪華客船で再会した冷徹海運王と、もう一度恋が始まりました
プロローグ
 都心にある最高級ホテル。
 レセプションパーティーに出席したあと、私はロビーの片隅で捕らわれていた。

「どうして逃げるんだ」

 彼の低い声を聞いた途端、私の肩が小さく揺れる。
 
 対峙している人物は、御堂(みどう)潤一(じゅんいち)。
 彼は日本屈指の海運会社『御堂海運グループ』の四代目社長だ。

 意志を宿した鋭い瞳、シャープな輪郭、高い鼻梁、無造作にセットされた艶やかな黒髪……。
 上等なタキシードに身を包んだ彼からは、かすかに爽やかな香水の香りが漂ってくる。

 見上げるほどの高身長と圧倒的な存在感。
 パーティーの会場にいた誰もが、彼が通り過ぎるたびに視線を奪われていた。
 政財界の重鎮でさえ、彼の前では心なしか居住まいを正していたように見える。

 こんなにも美しい人に目の前を阻まれ、射貫くような視線を注がれているのに……私はこの人から遠ざかろうとしていた。
 だけど彼は、なかなかそうさせてくれない。

「逃げてなんか……」

 ポツリとつぶやいた言い訳の言葉は、切なそうな彼の瞳に吸い込まれてしまった。

「性格が素直な分、ウソが下手だな」

 完全に見透かされている。そう意識した途端、息が止まりそうになった。
 覆いかぶさるような彼の体温が、すぐそこまで迫っている。

「ま、待ってください」
「待たない」

 強引だと思いながらも、私は彼の瞳から視線をはずせずにいた。
 季節には似合わない汗がじわりと背中ににじむ。

 彼は今や、御堂海運グループのトップに君臨している人。
 だから、私じゃなくてもっとふさわしい女性がいるはず。
 そう思っていた。——このときまでは。
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