豪華客船で再会した冷徹海運王と、もう一度恋が始まりました
「愛華さん」

 低い声が割り込むように聞こえ、振り返ると御堂社長がこちらに歩いてくるのが見えた。
 その途端、愛華さんの表情が瞬時に先ほどまでのやわらかな笑みに戻る。

「潤一さん。今、初瀬さんと少しお話していたの。ごめんなさい、捜してくださっていたのかしら?」
「迎えの車がもう来ています。行ってください」
「あら、大変。それじゃあ初瀬さん、また」

 にこやかにそう言い残すと、愛華さんはひらひらと手を振って去っていった。
 しっかりと反論する間もなく、私はその場でぼうぜんと背中を見送る。

『潤一さんに優しくされたとしても、図にのらないでね。自分は特別扱いされてるなんて勘違いしちゃダメよ。彼の隣には誰がふさわしいか、それくらいはわかるでしょう?』

 愛華さんの言葉が頭の中にこびりついて、なかなか消えてくれない。
 くやしいのに言い返せない自分が情けなかった。まるで、彼女の言うとおりだと認めてしまったみたいで、拳を握る手に力がこもる。

 私はほうっと息を吐き出したあと、タラップを降りた。
 もう、必要以上に彼には近づかないようにしよう。
 父の会社のためだと思われたくない。彼から特別扱いされて勘違いしていると思われたくない。
 なにより、これ以上近づいて、もしもう一度彼を好きになってしまったら——。
 その先には、傷つく未来しかない気がした。

 港の向こうに沈んでいく夕陽が、やけにまぶしく感じる。
 目の奥がツンとしたのは、きっと潮風のせいだ。
 私は一度も振り返らずに、友野さんとともに帰路に就いた。
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