元カレ弁護士の恋事情
 困った顔で笑いながら、久我さんは包むように私の手を取った。
 
「うそ……」

 あまりにもあっさり否定されて、私は目を見開いた。

「正確には、〝距離を置きたい〟って言った」

 胸の奥がざわついた。
 十二年前のあの言葉……。私はずっと「別れよう」と言われたのだと思っていた。

「ごめん……勘違いさせてたんだな。ちゃんと〝待ってて〟って言っておくべきだった」
 なぜだか一瞬だけ、あの頃の〝誠治くん〟が重なって見えた。
「俺は別れたなんて思ってない」
 私を見つめるまっすぐな瞳に、胸がぎゅっと締め付けられる。
 聞きたいことは山ほどあった。
 でも、ただ勘違いしていた自分が恥ずかしくて。
 それ以上に彼の言葉が、嬉しすぎて── 今は何も言葉にならなかった。
 
「でも、映美がそう思ってるなら、無理強いはよくないな……って。だから」
 真剣な表情で、久我さんは言葉を続けた。
「もう一度振り向かせてみせる」
 握っていた手に力が込められ、彼の気持ちが伝わってくる。

「この件が終わったら……。その時は、覚悟して」

 指先に、触れるくらいの優しい口づけを落とされ、心臓が大きく跳ねた。
 胸が熱くなる。私の答えはもう決まってる。
 私は、私だってずっと、〝誠治くん〟のことが──。
 衝動的に口にしそうになって、唇をきゅっと結ぶ。
 瞳が潤んで、鼻の奥がツンと痛くなった。
 でもこの件が終わったら。
 その時は、ちゃんと伝えよう。
 私の、偽りのない〝誠治くん〟への気持ちを──。
 
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